かたいなか

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「あと3週間と少しで、投稿から1年だが、『2年目どうしよう』ってのは、ずっと溢れてんのよ」
一応、明日には最高気温、上がるのな。某所在住物書きはスマホの天気予報を見て、ポツリ。
テレビ画面には立ち往生した都の公共交通手段。乗り合わせた方々は、さぞ不運を恨んだことだろう。

「新シリーズを書きたいとは思うけどさ。このアプリの特性と俺の力量考慮すると、完全ファンタジーの連載は無理なの。オリジナル設定とオリジナル用語満載で読者置いてけぼりにする自信しか無いから」
となると、俺くらいの力量の物書きには、今買いてる「現代軸の日常ネタ連載風に、ちょっとファンタジー挟んだくらい」が、一番書きやすいんよ……。
物書きはため息を吐く。
「……2年目は過去編でも書くか?」
あるいはそのまま、今の1年目の物語を続けるか。

――――――

2月5日の東京都、夜。
前々から「都心に雪が積もる」って言われてたから、リモートワークを申請して、雪国出身っていう職場の先輩のアパートに自主避難。一緒に籠城してた。
「東京には東京の怖さがある」。先輩は言う。
暖かさのせいでシャーベット状になる雪、溶けた状態で夜に突入するから凍結しやすい路面、普通にノーマルタイヤで走行して当然のごとくスタック or スリップする車の多さ、事故発生率、等々。
体感零下2桁も、メートルの積雪も、地吹雪も知っているけれど、東京には、東京特有の怖さが、ある。
先輩はそう言って、私に鍋料理と食後のお茶と、クッキーとチョコをシェアしてくれた。

「降ってきたな」
カーテンを掲げた先輩が、外を見て言った。
「酷く積もることはないだろうけれど、気温の関係で、明日の朝は少し道路が凍るかもしれない」
杞憂とは思うが、一応、可能性としては、な。
先輩はそう付け足すと、カーテンを片方だけ開けた。

SNSは「雪国マウント」だの「北から目線」だの、「スタック」だの。雪の投稿がいっぱい。歓喜というか阿鼻叫喚というか、ともかく色々溢れてる。
私は別に、今月先輩の里帰りに付いてって、真っ白な雪景色を見るから、東京の雪では騒がない。
皆が外で撮って投稿してくれる動画とか、画像とかだけ見ていれば、ぶっちゃけそれでじゅうぶnd

「すっご、すっご!先輩見て見て見て!雪!白!」
「そうだな」
「みんな傘さしてる!あそこのひと、コケてる!」
「そうか」
「先輩ちょっと黙ってて!動画撮らなきゃ!」
「はぁ」

まぁ、はい。 こうなりました(知ってた)

カーテンの先のベランダに出ると、防音防振の静けさが無くなって、一気に「東京」が耳に入ってくる。
その中で降雪、積雪だけが非日常で、
曇ってる空、空から落ちてくる雪、雪積もる階下、階下にたくさん咲いてる傘と時折コケそうになって踏みとどまる人、それからたくさんのバスとトラックと乗用車とバイクを、ただひたすら、動画に撮った。
雪だ。冬だ。東京に、冬が来た。
白と白と白に気持ちが溢れて、室内で専門書読む先輩に向かって、ほら雪、ほら自転車って、子供みたいにはしゃいで、手が冷たくなるのも気にならなくて、
部屋の中に戻る頃には、手が少し赤くなってて、

部屋に入った途端、明日のことが頭をよぎった。
「明日も雪残ってたら、私、絶対歩けない……」

さいわい、明日6日も、私と先輩はリモートワーク。通勤とか、遅延とか、気にしなくて大丈夫だけど、
まさしく自分で「ウケる」とか言いながら撮ってた光景が、きっと、明日自分のアパートに戻る時の私だ。
コケる。絶対、コケる。私には自信があった。

「……もう1日、延長するか?」
先輩は私の「はい。よろしくお願いします」を待たず、雪靴履いてドアへ。
「飲み物は、何が良い?炭酸系か?」
代わりに買い出しに行ってくれる背中に、ぽつり。
「はいちう、レモン系、ホロヨイおねしゃす……」

2/6/2024, 12:37:33 AM