安達 リョウ

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窓越しに見えるのは(近くて遠い君)


朝、通学する電車でのわたしの立ち位置はいつも窓際。
ラッシュアワー時で座れないのはともかく、窓際を陣取れるのは嬉しい。
凭れてスマホを片手に時間を潰すのが日課だが、ある場所になるとわたしは窓の向こうに目線を移す。

―――必死に自転車を漕ぐ、名前も知らない男子学生。

この時間毎日見かける、彼を眺めるのが何となく習慣になっていた。
雨の日も風の日も、多分雪の日も、いつも時間ぎりぎりなのか自転車を爆速で漕いでいる。
朝からすごい元気で羨ましいと思う反面、もう少し早く家を出ればそんな体力使わなくて済むのでは………、といらぬお節介を焼いてしまう。
毎日眺めているせいか、妙な情を抱いてその姿を追ってしまっている自分がいた。

ある日、また何気なくその場所に視線を移したが、―――いない。
珍しい、どうしたんだろう。休み?
………あれは確か隣の男子校の制服だから今日は休校ではないはず。
首を傾げていると、駅名を告げるアナウンスと共に電車が止まり、扉が開いた先に―――彼がいた。

遠目でしか目にしたことがなかったが、特徴が確実に自転車の彼と被っている。
あのひとだ、とわたしは内心確信した。
―――窓からいつも見ていた彼と、今目の前で吊り革を握っている彼とでは印象が全く違っていてわたしは動揺する。

なぜかって、彼が余りにも―――かっこよかったから。

自転車はどうしたのだろう。何かあった? 
それともたまたま今日だけ?
もしかしてこれから電車通学になるとか?

ドキドキする。心が躍る。

ああどうか、明日もこの時間のこの電車に彼が乗ってきますように。
―――窓越しではなく何の隔たりもない近い距離で、もう少し彼を見ていたい。

恋に落ちる瞬間というのはこういうことなのか、とまるで他人事のように思いながら、

わたしは彼に見惚れていた。


END.

7/2/2024, 7:12:14 AM