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静かなる森へ

荒涼とした峻厳な森に、気付けば私は迷い込んでいた。幾重にも重なる茂った葉に光は遮られ、行く道の先は酷く冥冥として、恐ろしいほどに静かである。どうして私がこの森にやって来たのか、おおよそ見当はついている。其れは私の罪深さの所為であろう。太陽の黙するこの森で私は恐ろしさに震えていた。
幸いにも、道のりの中途、ある御方に出会った。
「どうか、そこのお方。お助け下さい」
かの人は助けを求めた私に優しげに微笑むと、掠れた声で、私について来なさい、と言った。私はこの森の奥、その先へ行くべきだという。彼は私を導く先達であり、聡明で博識であった。美しく端正な面に微笑を浮かべ、師は私を導いた。
「ついておいで。恐れずとも良い。お前の行先は祝福されているのだから」
「どうしてそう言い切れるのです」
「私はある御方に命を受けてお前を導きに来たのだ。そのお方はお前の愛した御方だよ」
嗚呼、と溜息が漏れる。彼女の美しい目を思い出した。天を流れる星を閉じ込めたかのような、美しい目。
「ああ、なんて情け深い御方であったことだろう。私は貴女に会いたい」
「その為に、お前はこの先を進むのだ」
師の言葉に陰鬱な森を見渡すと、先の情熱の花が萎んでいくかのように恐ろしさが体のうちに湧き上がって来た。師は私の恐れを感じ取ったのか、情愛に富んだ目で此方を見つめた。
「私がお前についているのだから、安心なさい。お前はこの先にある、見るべきものを見なければならないのだから」
師は私の手を取り、優しく握り締めた。その温もりに、不思議と力が湧いてくる。
師に手を引かれ、私は漸く森深くへ進んで行った。
「先生、この先には何があるのですか」
「この先は、憂の国だ。罪深き人が未来永劫、此処に苦しんでいる。一度入ったものは、もう二度と戻れない」
「私の罪はどうなるのです」
「あの御方に会えば分かるだろう」
しばらく歩くと門が見えて来た。永遠で満ちていた世界に初めて創造された、地獄の門。
「さあ、行こう」
優しい師の目配せに、私は頷いた。

Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate.

───迷いは捨てた。ただ進むのみ。





迷走しました。なにこれ。

5/11/2025, 3:28:42 AM