大空
狭え。
全方位から、身体が押さえつけられている。少しでも身じろぐと何かが肉に食い込んできた。
「痛え」
口を動かしたら、砂が流れ込む。薄目を開けると塵が邪魔する。
それでも、じっとなんてしていられない。何か使命があった気がする。しなくてはならないこと、守らなくてはいけないもの。
指先に力を込めた。小石が指の隙間を転がるのがわかった。
わずかでも空間があるということだ。
少しずつ、少しずつ。身体の周りを埋めるそれらを避けて、動く余地を探っていった。
どれだけの時間が流れただろう。
頭に浮かべるのは、果てしなく青い空。きっとここから抜け出したとき、目にすることができるんだ。
人差し指が何かに引っかかった。爪で弾くように動かすと、白いものが瞳を打った。
光だ。
息を呑む。
腕をねじ曲げて、指1本分の穴を求めた。無理に突っ込むと、ギシギシと周りのものがうごめいた。
「っ、ああぁあ!」
皮膚が切り裂かれる。身が削られる。あらゆる痛みを無視して、叫びと共に握りしめた拳を突き出した。
がらがらと崩れ去るそれら。目の前に広がっていたのは、大空。
白い空だった。
家屋なんてものは見えない。木々も人も、何もない。
ひび割れた地面にはかろうじて、カラカラに干からびた草が生えている。
神様が、白のペンキを黒い画用紙にぶちまけたように、世界には2色しかなかった。
守りたかったもの。
振り向くと、大きな箱が倒れていた。1メートルほどある長方形で、ぼろぼろに壊れているようだった。
蓋を開けると空っぽで、ああ、箱も自分の手も、平坦な黒色をしていた。
中に入る。大空は雲ひとつ、かげりひとつない快晴。青色じゃければ空でないなら、この世界は大したことない。
内側から蓋を閉めると、肩の荷が下りた心地がした。
ああ、ちゃんと守ったよ。
どこまで続く、純白の空。
12/21/2024, 5:56:11 PM