どんな調子か、その部屋は妙に音の響きが良かった。そのことに気づいたのは、音楽を聴いていたときだ。何だか音が心地よく響く気がするのだ。
他の部屋で聴くと、特にいいとは思わない。その部屋だけが不思議と音が違って聞こえる。何かに反響するのか、どうなっているのかまったく分からないのだけど、よい音に聞こえる。音が研ぎ澄まされている気がするのだ。
大きな音では良さがでない。程よいボリュームにすると、いい感じになる。そんなに音楽が好きというわけではないのだけれど、この部屋ではよく音楽を聴いた。音が多重に重なり合うオーケストラ演奏なんかは特によかった。これは、私だけの秘密だった。ほかの人に言っても、?という顔をされるだけだったからだ。
それが、あるときから普通に聞こえるようになってしまった。他の部屋で聞くのと大して変わらない。どうしてそうなったのかも、やはり分からない。あの響きが失われてしまったことに、密かにがっかりしているのだ。
「失われた響き」
11/30/2025, 7:49:52 AM