色野おと

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シュトーレンの最後の一切れを食べ終わった。

私の世界から彼女の息吹が消失してこの5年というもの、ひとりのイブを過ごすのが恒例となった。

世に云うクリスマスまでのアドベントのあいだ、計ったように切り分けたシュトーレンを食べながら私が待ち続けたのは、ほんとうのところクリスマスではなかった。

「待った」というのとは少し違う。「消費した」のほうが私の真実には近いのかもしれない。私の目的は、シュトーレンの思い出とともに過ごすことなのだから。

彼女が生前、よく作ってくれたシュトーレンはほんとうに美味しかった。珈琲よりも紅茶がよく合っていた。その彼女とのクリスマスまでの4週間に交わしたタカラモノのような言葉の数々を思い出す。

一日ひと切れずつ食べるごとに一つの会話を思い出す。こころのなかに灯ったロウソクのような優しく小さな灯りを、まるで手のひらで守るように大切に大切に。

イブの夜、一切れのシュトーレンとともに最後の思い出を振り返ったあと、人知れず涙を零した。けっして悲しい涙ではない。ひとって、嬉しいとき、幸せなときも涙を流す生きものなんだ。

その温かいものが溢れた時間……私にはそれこそが何物にも代えがたいクリスマス・プレゼントなんだ。

今年もこころの温まるイブの夜だった。



テーマ/イブの夜

12/24/2023, 7:12:28 PM