前日の日照りから一変、今日は涼しい気温だと、テレビのニュースキャスターは喜んでいる。「半袖では厳しいかもしれません」という助言の元、薄手の七分袖シャツとコートを引っ張り出した。もうあと数日で「秋」という季節も三分の一が過ぎる。今日を皮切りに過ごしやすい気温になると良い。
なんて呑気な考えをしていたのは朝の話。夜になった今はすっかり冷え込んで、さらに風が少し強めに吹いている。日中のぽかぽかたした日差しが恋しい。涼しいといえば涼しいし、寒いといえば寒いというどっちつかずの冷たさが全身を包む。それに顔を顰めながらも、自分は今、公園のブランコに腰掛けて、何をするでもなく宙を見上げていた。
家に着けば、こんな所より遥かに良い環境なのは間違いない。風呂にもゆっくり浸かれるし、動きやすい服に着替えてのんびりもできる。反対に、ここは騒がしく囃し立ててくれるテレビもなければ、落ち着けるベッドも無い。あるのは寂しい月明かりと、寿命が尽きかけた蛍光灯の点滅くらいの物だ。「あの灯りが消えたら私の命も……」なんて妄想をしてみると、いよいよ動く気が無くなってくる。ギィギィと揺らすブランコの音でさえも、なんだか命を削るようなものに聞こえて仕方ない。動かしているのは私自身なのに。
時計を見る。既に十時半を回っていて、今すぐに帰らなければ、と足に力を入れる。まだ夕食も済んでいない。明日も仕事なのだ、休む訳にはいかない。そんなことは分かっているのだけど。
帰れば明日が来るのか。
至極当たり前のことを考えて、ほんの少し浮いていた腰がまた落ちる。ため息を一つ、またブランコを揺らした。
別にここで帰らなくても明日はある。勝手に向こうからやって来る。少しでも休んで疲れを癒してからになるのか、全身を疲弊させたままにするのか。それくらいの違いだ。駄々をこねていても何一つ解決しない。
ギィギィ。
ギィギィ。
ジ……。
顔を上げる。蛍光灯が消えていた。
月はぼんやりとそこにあるが、道を照らしてくれるほどの明るさはない。まるで自分だけが取り残されたような、目の前の暗闇がそっと自分を包んで離してくれないような。そんな錯覚に目を細める。
身動き一つ取れず、ぼうっと浸ってどのくらい経ったのか。トドメを刺すように風の力が増した。びゅうと吹いた冷たさが肩や足を氷づけにして、揺られる気すらも奪い去っていく。握っていた手もそっと離して、鎖にもたれかかった。
ついさっきまで、憂鬱としながらも明日のことを考えていたはずだった。この公園に来たのだってただの気紛れで、長居するはずでは無かったのに。
急激に眠気が襲ってきて、抗うことなく眼を閉じる。風は相変わらず私を抉っているけれども、正直それさえも心地いい。このまま削られて、さらさらと溶けていったとしても後悔は無い。
もし今が夏であったなら蒸し暑さに身悶えているだろうし、冬であれば寒さで惨めなことになっていたに違いない。この季節であったからこそ、私は心置きなく身を預けられる。
今日が秋で、本当に良かった。
2024/9/27
「秋🍁」
9/27/2024, 4:51:08 AM