Open App

*明日、世界が終わるとしたら*

「明日、隕石でも落ちればな、」

同じ会社の同僚にそう口走りそうになったその日。
-この世界は毎日同じ"作業"の繰り返し。
起きて、移動して、働いて、食べて、働いて。

「人生はゲームだ、楽しめ」

なんて言葉をどこかで耳にしたことがある。
そんな言葉に対して、俺は今こう返すと思う。

このゲームには「飽きた」んだと。

ストーリーゲームは、大体いつか終わりが来る。だが、ほとんどの場合毎日違うイベントがある。

アーケードゲームは、永遠にやっていられるものが多いが、俺はあまり好きじゃない。

そんなことだけを考えて乗っていた帰りの電車の中。突然「えっ!?」と驚いたような声が聞こえ、考え事をやめて声がした方に反射的に顔を向けると、有線イヤホンを耳につけた女性が、少し青ざめた顔でスマホを落としていた。

俺は何もせず、ただ見ているだけだった。

近くに居た男性がそのスマホを拾うと、その男性もまた、小さく驚きの声を上げた。

俺はその男性の手元にあったスマホ画面に映っていたものに衝撃を隠せなかった。

「い、隕石っ、隕石です、みなさん!」

普段はしーんと静まり返った車内のはずが、今日は沢山の人が混乱や驚愕の声を上げた。

スマホ画面には、日本で全国的に見られているニュース番組が映っていた。

「地球に迫る大きな隕石 明日衝突か」

そんなふざけたようにしか見えない文字列に、俺は現実味を感じることが出来なかった。

「隕石でも落ちればな」

今日そんな事を口走った俺は、何故か黒く大きな罪悪感に苛まれる。
軽々しく口にした事が本当になってしまうなんて。

"明日、世界が終わる"

そう認識したのは、それから数十分経ってからやっとの事だった。

電車を降りると、電車から降りた沢山の人は皆駅のホームで座り込んだ。
泣きながらスマホを耳に当て、何やら話している人もいれば、真剣にニュースの内容だけを聞いている人も数人いた。

-俺は。

走って駅の改札口を通る。
最寄りのコンビニで鮭おにぎりを買って。
空を見上げると、昼なのになんだか暗いような気がする。

「…ニューゲーム、か」

嬉しかったのか、悲しかったのか、驚き過ぎて脳がショートしていたのか、それは俺にも分からない。

ただ、世界が終わる日の前日なんて、案外俺は

「まだ終わってないストーリーゲームあるんだよなー……結局主人公達付き合うのかな」

気持ち悪いくらいに冷静なのかもしれない。

5/7/2023, 6:17:44 AM