青と紫

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「私の瞳の色は心の色なの」

彼女はそう教えてくれた。

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彼女は澄んだ青色の目を持っていた。

ふわふわの髪の毛は私の直毛と、全く違った。

姿かたちは、どこか異国の雰囲気を漂わせていた。

彼女は緑香る頃、爽やかな風と共に、私達の学校に

やってきた。彼女は、退屈な日常に異国情緒を伴った

風を吹き込み、非日常に変えたのだった。日常に

飽き飽きして、非日常に飢えていた私達は、

たちまち彼女の虜となった。明るく美しい彼女も、

私達のことを好いてくれたようで、クラスは彼女を

中心として、きちんと回っていた。

私は彼女のことを1番愛しく思っていて、彼女も

クラスの中で、私を大事に思っていてくれた。

自分の瞳が感情によって変わるという秘密を

私にだけ教えてくれた。彼女の瞳が冷たい色に

なるとき、彼女は悲しみや怒り、辛さなどの良くない

感情を感じている。逆に、暖かい色になるとき、

喜びや、嬉しさ、などの良い感情を感じているときだと

発見したりもした。

なのに、歯車が狂い始めたのはいつからだろうか。

最初は、うさぎ小屋でうさぎが死んだ事件だった。

当時、生き物係だった私と彼女は、放課後小屋で、

包丁で殺されたうさぎの時代を見つけた。

なかなかにグロテスクで、彼女の後ろに隠れて

しまったくらいだった。

「うさぎ殺されたみたい…。」

「誰がこんなことしたのかしら。ひどいわね。」

彼女は憤慨した様子で、そう言った。正義感の強い

彼女は、こんな事件が起きたら首を突っ込むこと

間違いなしだった。私は密かに、放課後も彼女と

居られる喜びを噛み締めながら、小屋の周りを

観察した。特に何も見つからなかったけれど、

彼女はなにか分かったようだった。

「今日は朝の7時半まで、雨が降っていたわね。

 なのに扉を 開けた跡が土に残っているわ。

 きっと朝にやったのでしょう。朝7時半から…
 
 そうね、朝挨拶委員が並ぶまで、8時までに

 来た人は誰かしら。」

私は答えられなかった。朝のことなんて覚えて

いなかった。そう繰り返す私に、彼女は諦めたよう

だった。犯人探しは頓挫した。

事件はおそらく生徒の犯行ということで、表沙汰には

ならなかった。彼女の瞳の色は緑色だった。

冷たい色だった。きっと悲しみを感じていたんだと

おもっていた。

歯車が狂い出した原因は、もう一つあるだろう。

彼女の瞳の色について、噂が出回ったのだ。

彼女の表面しか見たことがない人は、彼女の美しさを

妬み、悪意のある噂を流した。魔女の末裔だとか、

はたまたそれは虚言で、有名になりたいがためについた

嘘だとか。

みんな好きになるのが早かった分、離れていくのも

早かった。みな、異国からやってきた素敵な姫と

思っていたのに、もう他国からやってきた異物だと

思っているようだった。

彼女は徐々に孤立し、顔に笑みが浮かぶことも

なくなった。私は最後まで彼女のそばにいたけど、

彼女の瞳は緑色をたたえたまま変わらなかった。

深い哀しみに取りつかれているのだと思っていた。

そして彼女はとうとう転校した。

私に何にも告げず、学校に行ったら居なかった。

不審に思って先生に聞いたら、転校するのだと

教えられた。先生は親切に、彼女たちが出発する時間

も教えてくれた。

私はその時間に、彼女の家まで行った。ちょうど彼女が

出ていく頃で、私は声をかけた。

「ねえ、帰っちゃうの?なんにも言ってくれなかった

 じゃない!」

「ねえ、なにか言うことはないかしら。」

「言うこと?うーん…。あなたがいなくなったら

 さみしいわ。」

彼女はもうなにも言わなかった。黙って私に背を

向けた。そしてそのまま歩き出した。

でも私には見えた。別れ際の彼女の目は緑色だった。

多少素っ気なくても、別れを悲しく思っているのだと。



分かったつもりだった。

最近までは。でも今になってあのことを思い返すと、

彼女は気づいていたのかもしれない。



私が、うさぎを殺したって。彼女と少しでも長く一緒に

居たくて、あんなことをした。朝早くに来ていたのは

二人だけだった。私と、利き腕を骨折をしていた

クラスメイト。言ったらバレると思って、忘れたふりを

した。でもあれくらい骨折をした子に聞けば、すぐに

わかったはずだ。まともにうさぎを殺せたのが私だけ

だったと。

噂もそうだ。あのことを知っていたのは私だけだった。

みんなと仲良くしている彼女を見て、少し孤立したら

私だけを頼ってくれると思ったのだ。

そう、きっと彼女の瞳の緑色。

あれは軽蔑の色だったに違いない。

犯行をして、自分はやっていないように振る舞っていた

その姑息さを、心底軽蔑していたに違いない。

そして別れ際に、彼女が促しても知らない振りをした。

その卑怯さに呆れ果てついに私を見放したのだ。



でも時々思う。

        かわいそうな子

     私を愛してくれたらこんなことには

        ならなかったのに。


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別れ際に
「緑の瞳」

9/29/2023, 9:58:27 AM