300字小説
送り鬼
俺の住む町は冬になると『雪鬼』が出るという。
昔、ここが山沿いの集落だった頃、山に出かけ、不運にも凍死した猟師や炭焼きの魂が降りてきて、暖を求めて彷徨い歩くのだと言われていた。
忘年会でつい飲み過ぎ、終バスで帰ってきたものの、待合室のベンチで潰れて眠っていたはずの俺の身体が、誰かの藁を編んだ簑のチクチクする背中に担がれている。ボソリボソリと藁靴が凍った雪道を踏む音と共に呆れた声が聞こえた。
『……あんなところで夜を越して、かかあや子を置いて、あちらに逝ってしまったらどうする』
翌朝、妻の話によると、いつの間にか俺はベッドで寝ていたらしい。二日酔いの頭を抱え起きる。枕元から床に柿の実がころりと転がった。
お題「冬になったら」
11/17/2023, 11:33:54 AM