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 僕は決めていた。今日こそは絶対に声をかけるんだ。
 外ではすでに後夜祭が始まっていて、生徒達の楽しそうな声が聞こえてくる。僕は急いで教室を出た。走るな危険と書かれた張り紙を横目に全速力で廊下を走り、階段を下って昇降口に出る。自分の下駄箱から靴を出して履き替えると、上履きを片付けるのも忘れて校庭に急いだ。
 校庭の真ん中には小さなステージがあり、それを囲むように生徒達がいる。各々が友達や恋人と一緒に笑い合ったり、二日間の思い出を振り返ったりしている。ステージの上に立った生徒が合図をすると、吹奏楽部の演奏が始まり、生徒達が手を取り合って踊り始めた。
  ーーやばい。彼女はどこだ?
  僕は楽しそうな生徒達の間を縫って彼女を探す。
 「いた…」
 彼女は校庭の中心から少し離れた場所で、みんなが踊っているのをみつめていた。鼓動が速くなる。秋の風は涼しいのに、額から汗がつうと頬を伝う。立ち止まり、深呼吸をしてからゆっくりと彼女の方へ向かった。
 「あの!」
 「あれ、どうしたの?踊らないの?」
 「ーー僕と、踊りませんか」
 言った、言ってしまった!もう後には引けない。差し出した手を彼女が取ってくれるのを祈るしかない。恐る恐る彼女を見つめると視線がぶつかった。
 「うん、踊ろう」
 彼女は笑いながら僕の手に自分の手を重ねてくれた。その笑顔が嬉しそうに見えたのは、僕の思い上がりだろうか。
 吹奏楽部の演奏が、秋の夕暮れの中に僕の鼓動の音を隠してくれた。

10/4/2023, 1:58:17 PM