真岡 入雲

Open App

【お題:鋭い眼差し 20241015】

「ねぇ、ほら、あの人また明日香のこと見てるよ⋯⋯」
「えー、気のせいじゃない?」
「絶対見てるって」
「そんなことないって。それよりほら、買い物の続きしよう」
「でも⋯⋯」
「今日中に服決めるんでしょ、初デートの」
「あ、うん」
「水族館に行くんだよね、いいなぁ。その後の予定は?」
「近くに見晴らしのいい公園があるからそこに行こうって」
「うわぁ、羨ましいなぁ。私も彼氏欲しい」
「明日香ならすぐできるって」
「うーん、そうだといいなぁ。あ、これ可愛い。忍に似合うんじゃない?」
「あ、ホントだ、可愛い」
「あー、こっちのデザインも可愛い。これとか良くない?」
「いいね、でもちょっと露出度高すぎじゃない?」
「これくらい普通よ、普通」
「そうかなぁ」
「試着してみれば?思ってるほどじゃないかもしれないよ」
「それもそっか。じゃあ、試着してみるね」
「うん」

忍に人生初彼氏ができたのが4日前。
社会人の彼とはバイト先で出逢ったらしく、来週末が初デートなんだって。
今日はそのデートに着ていく服を買うために、街まで来たんだけど⋯⋯。

「叔父さん」
「は、はいっ」

柱の影からこっそり?私たちを覗いていた人物に声をかける。
叔父と言っても、母よりも私との方が歳が近い叔父さんなのだけれど、この人が物凄く心配性なんだ。

「昼間の街中で危ないことなんてそうそうないから、もう、帰って」
「え、でも、どこから石が飛んでくるかわからないし、変な男たちが寄ってくるかもしれないだろう?」
「石は飛んでこないし、変な男も寄ってきません」
「そんなのわからないだろ?」
「⋯⋯⋯はぁ。ねぇ、叔父さん。私もう19歳なの」
「そうだな。大きくなったな」
「そう、大きくなったの。もう、成人扱いされる年齢なの」
「こーんな小さかったのになぁ」

そう言って、豆粒くらいの大きさを示す叔父さん。
うん、さすがにそれは小さ過ぎるよ。

「だから、もう、大丈夫なの」
「いや、それとこれとは話は別だ。俺は姉さんに明日香のことを頼まれてるし、義兄さんにも言われてる」
「パパから言われてるって、何を?」
「変な虫をつけるなって」
「⋯⋯⋯⋯はぁ」

この上なく娘Loveなパパとママは、パパの仕事の都合で今は海外にいる。
既に希望の大学への進学が決まっていた私は日本に残ったわけだけど、一人暮らしの許可は降りず、作家をしている叔父の家に預けられた。
まぁ、叔父さんの家は大学に近いしオシャレで広いから文句はないけれど、とっても過保護なのが問題で、大学へは車で送り迎え、バイトは禁止、サークル活動も禁止という軟禁生活を強いられている。
と、言うのも小さい頃に私が誘拐されそうになった時、そばにいた叔父さんが何も出来なかったのがトラウマになっているらしくて、あまり強く言えないと言うのもある。

「わかった。叔父さんの好きにしていいよ、もう。その変わりもう少し離れてて」
「えっ、⋯⋯⋯⋯はい⋯⋯」

キッと睨んだ私の顔を見て、しょぼんと肩を下ろして歩く大の大人。
身長180以上の、ちょっと筋肉質な30手前の男性が、とぼとぼと歩いて行く後ろ姿はなかなかに面白い。
切れ長の一重なので、遠目から見ると鋭い眼差しの猛獣のような印象を受けるのだけれど、その実中身はとても繊細な人なのだ。
叔父さんの本の評価でも繊細な心の表現が見事で〜とかよく書かれている。
叔父さんの事は嫌いじゃない、寧ろ好きだし、私の理想のタイプは叔父さんだ。
家事全般をそつなくこなし、毎日遅くまで仕事をしているのに、私のために朝食を用意してくれたりする。
一度、自分で出来るからと断ったら、気分転換に良いからやらせてくれと懇願されるという、訳の分からない事態になってはいるのだけれど。

「あれっ?明日香どこ?」
「あ、今行く!」

そのうち叔父さんに彼女でもできれば、私への過度な心配もなくなるだろうと思っている。
そうじゃないと、私、絶対彼氏作れない。
そんな青春は寂し過ぎるので、早く叔父さんに彼女が出来ますようにと毎日祈ってる。


━━━━━━━━━
(´-ι_-`) 子煩悩叔父さんは独身貴族デス

10/16/2024, 8:33:56 AM