【夢見る心】
幼い頃から、天使になりたかった。
純白のトーガを纏い、無垢な翼で天を飛び回るあの天使だ。光輪があると尚のこと美しく映えるだろう。天界では色とりどりの花が咲き誇る庭園で、天使たちが舞い踊るのだ。
少し歳を重ねて、私は人間が天使になれないことを知った。幼稚園の卒業アルバムでは『しょうらいのゆめ』という欄に『天使』と書いた。意気揚々と回答した私にとって、現実は少々残酷なものであった。
しかし、なれないものは仕方ない。私は高校、大学と進み、将来の夢とはかけ離れた職に就いていた。それなりに誇りはあるし、やりがいも感じている。ただ、私の体は限界を目前としていた。
人間関係というのは甚だ面倒だ。異性の上司からの視線は気色が悪いし、それを良く思わない同姓からは遠回しな嫌がらせを受ける。上層部は腐っているし、ここは魔界に違いない。
私はそれなりに住み慣れ始めた部屋で直立していた。輪っかを首にかけ、小刻みに震える足で思い切り足場となった椅子を蹴り上げた。
ようやく私も夢見た天使になれるはずだ。
真っ暗な部屋にはカーテンから夕暮れが差し込んでいる。その明かりに照らされて、白壁に影が写される。輪っかで首をくくられた天使は、その中でゆらゆらと踊っていた。
4/16/2024, 10:40:22 AM