狐コンコン(フィクション小説)

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※虐待描写あり  8
(君が紡ぐ歌を声に解釈しました)



「あぁ、アンタの泣き声って本当に癪に障る!!うるさい、うるさいのよアンタ!!くそっ、産まなきゃ良かった!!」

怒って私のほっぺを何回も叩くおかあさん。

痛くて涙が出てきそうになるけど、泣いたらおかあさんは怒るから。

おかあさんに叩かれる時間は嫌いじゃない。だって、おかあさんが触ってくれるから。痛いけど、じーんって痛いときだけは、おかあさんから暖かいのをもらえたって思えるから。

たまに帰ってくるパパ達は、おかあさんのことを「ははおやにすらなれないばいた」って笑いながら言うけど、私は意味が分からないからにっこり笑うだけ。
どういう意味?って聞こうとすると、おかあさんは怒るから。

おかあさんはいっつも泣いて、怒って、たまぁに顔を赤くして笑う。
顔を赤くして笑った後は寝ちゃうから、カンカンって音が鳴るやつを袋にいれて、おそとに出しておく。

そうすると、たまに褒めてくれるから。おかあさんが褒めてくれる時の笑顔を見れるなら、なんだって出来る。





小さい頃はそう思ってた。
だから、母さんの笑顔を見るためならなんだってした。
母さんの彼氏達のご機嫌必死でとって、何されたって黙ってた。痛い事も苦しい事も気持ち悪い事も我慢した。
酒を盗むのだって、子供だからって理由で許されるたびに繰り返した。
母さんにいくら殴られたって誰にも言わなかった。
児童相談所がいくら来ようと、愛想よくして追い返した。

全部、全部、全部我慢した。
母さんのために私の人生捨てたのに。
母さんのために言う通りに何でもやったのに。
母さんはあっけなく病気で死んで、私1人取り残されて。

自分の体が自分じゃないみたいに生きてたら、バイト先の人から告白されて、適当に頷いたら付き合うことになって、数年経って結婚して、気づけば子供を産むまでになった。

母さんが死んで旦那に告白された時から、私の人生は見違えるように"普通"になった。

我慢して、我慢して、我慢をし続けて捨てたはずの人生がやっと私の手に戻ってきて、これから普通の人間として生きられるんだってやっと思えたのに。

あんまりにも言うことを聞かない子供に腹が立って。
私はあんなに我慢したのにって気持ちになって、それで。









「あぁ、アンタの声って本当に癪に障る!聞いてるだけでイライラするのよ!!もうアンタなんか産まなきゃよかった!!」


あぁ、私は普通になれなかったんだなって。

10/19/2025, 12:58:50 PM