レジャーシートを地面に敷いて、コンビニで買ったおにぎりを横に置き思いっきり伸びをしてから寝転ぶ。
周りの草木の匂いが肺をいっぱいにして、マイナスイオンがしこたま取れるな。とぼんやり考えた。
今日はそこまで風が強くないため、ゆっくりと流れる雲を眺めながら手探りで胸ポケットに入れていた写真を取り出す。取り出した写真を空に掲げて見ると、自然と頬が緩んだ。
「うん。よく撮れてる。」
ふわっと舞った草と一緒に流れる風が自分の髪や頬を撫でていくのを甘受しながら、僕は目を瞑った。
思い出す情景は先程掲げた写真を撮った日のこと。
あの日は確か、久しぶりに夕方外に出た。
僕は基本休日に外に出ることはなく、その日は本当に珍しいことをしたと思う。行く宛てもなくぶらぶらとさまよっていると、自然と海の方に向かっていた。
夕陽が綺麗に見える日だった。水平線に沈もうとする太陽がオレンジ色の光を放ち、上に紫や桃色のグラデーションを作り上げる。
明日は晴れなのかなーと寒い海風を全身に浴びながら呑気に考えていたものだ。
そんな綺麗な空を見ながら堤防にそって歩いていた時、二つの人影があることに気づく。柵を乗り越えて座る二人組は笑っているのか、片方が肩を揺らしていた。柵を乗り越えるなんて危ないな。僕は特に気にすることなく歩き続け、ふと足を止めた。
肩を揺らして笑っていた方が、自分の知人にそっくりだったから。
確か、同じクラスの無口な男。いつも無愛想で部活にストイックだと噂されていた奴だったか。
そんなクラスメイトが笑っているという事実に、かなりの衝撃を受けたのを覚えている。動かない表情筋が働きすぎていて心配になるほどだ。
もう一人の座っている男と何かを話しながら時に意地悪げに、時に心から溢れる笑いのように、コロコロと変わる表情がとても面白くて。見ているこっちまで笑いそうになる。
とても、幸せなんだと分かるような笑い方だった。
数分その様子に魅入って、我に返った僕はそろそろ帰ろうと踵を返す。クラスメイトの意外な一面が見れたことで上機嫌になった僕は、ポケットからスマホを出そうとして一枚の紙切れを落とした。
前に何かを買った時のレシートがふわりと落ちて、さすがにポイ捨てはいけないと思いながら拾い上げる。
それから一瞬前を見て、思わず固まってしまった。
口元を綻ばせ、じっと隣の人物を見つめて膝に顔を預けているクラスメイトが目に入ったのだ。
儚く、それでいて力強い目を持つ彼が幸せだと感じているのを緩んだ口元が伝えてくる。
思わず、本当に咄嗟にスマホを構えてパシャリと一枚の絵画のようなものを撮ってしまった。
後からこれは盗撮という所謂犯罪なのではと我に返ったが、その時にはもう消す気になどなれず。そのままファイルに保存した。
紆余曲折あり、結局あのクラスメイトとは友人と呼べる仲になる。まぁ、その頃には彼は全く笑わなくなってしまったけれど。
今日わざわざレジャーシートを敷いて寝転んでいるのも後から来る友人を待っているからだ。
目を開いて、突然入ってきた光に再び目を閉じる。何度か瞬きすればだんだん慣れてきて、青い空が僕の視界を独占する。しばらく見ていると、がさりと草を踏みしめる音が近づいてきて、僕は目を閉じた。
そうしていればほら。
「いつまで寝てんだ寝坊助。」
と意地悪げに笑った友人が顔を出す。
【大地に寝転び雲が流れる…目を閉じて浮かび上がってきたのはどんな話?】
5/5/2023, 7:34:53 AM