Open App

 オフィスビルの広いエントランス。ソファが想像よりふかふかで、気持ちがよかった。
 天井が高いなー、なんて考えながらぼんやり待っていると、向こうのエレベーターから降りてくる父の姿が見えた。



「はい、お弁当。もう忘れないでよ」

 父に、母お手製のお弁当が入った袋を手渡す。これでわたしの仕事は終わり。

「おう、悪かったなぁ。……というかお前、今日学校は?」

「休んだよ。お父さんにお弁当届けたくって」

 もちろん、嘘だ。

 今朝は、どうしてもだめだった。
 学校に行こうとすると、胃がぎりぎりと痛んで吐き気がした。

 原因はよくわかっている。だけど、家族には絶対相談したくない。

 父は一瞬何か言おうとしたように見えた。

 けれども、その言葉は飲み込んだのか、いきなりわたしの髪をくしゃっと撫でた。

「そうか。お前が届けてくれるなら、またお弁当忘れようかな」

「……やめてよ、めんどくさい」

 その手は鬱陶しくて、とてもあたたかかった。



『あなたに届けたい』

1/31/2024, 4:21:14 AM