かのこ

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『私の当たり前』2023.07.09

 楽屋に入ると弟子や前座見習いが座布団とお茶を用意してくれる。座布団はお気に入りのもの、お茶はやや熱めの濃いめ。
 ネタ帳を見ながら、今日の高座で何をかけようか考える。
 今日は空もキレイに晴れており、梅雨の時期にしては景気がいい。なんだか気分まで楽しくなってくるようだ。滑稽話がいいもしれない。
 他の師匠方も同じ事を考えているようなので、ネタ被りは避けたいところである。
 そこに弟子の一人がやってきて、贔屓からの差し入れを持ってきてくれた。それもいつものことだ。こうして差し入れをしてくるのは一人しかいない。
 いつもの贔屓が匂い袋をプレゼントしてくれたのである。
 ミカンのいい匂いだ。いつだって贔屓はこちらが望むドンピシャのものを入れてくれる。
 ミカンといえば、それにピッタリの噺があった。しばらくやっていないが、大丈夫だろう。
 弟子にその噺を伝え下がらせると、スマホをチェックする
 すると、匂い袋の贔屓からメッセージが届いていた。
 その文面に笑ってしまう。
 まさに自分がかけるつもりの噺を、図々しくもリクエストをしてきていたのだ。そのつもりで、ミカンの匂いを差し入れてきた。
 いつだって贔屓は愛嬌のある図々しさをみせてくる。ときどき、やれやれと思うがその図々しさがないとどこか物足りなさを感じてしまう。
 そんな贔屓からの差し入れとメッセージが、すっかり当たり前となってしまっているのだった。

7/9/2023, 12:00:43 PM