《秋恋》
太陽が空の上にある時間がこれから短くなっていくという日。
空には、刷毛で白を撫でたような雲がたなびいている。
私は、一面に咲くコスモスの花の中でぼんやりと考えていた。
赤、白、桃、黄。そして葉の緑。とりどりの色が、風に吹かれてふわふわと揺れている。
宇宙、の名をもらった花。
宇宙の中に世界があるように、実はコスモスみたいに物凄くたくさんの世界があるのかな。
私の元いた世界とこの世界のように、絶対に交わらない世界、宇宙がたくさんあるのかな。
私はとんでもない偶然で、彼の世界に魂だけ辿り着けた。
ただ、髪と瞳の色はかつて闇に魅入られてその復活に力を貸した者とそっくりで。
その人は、闇から手を引いたら髪も瞳も元の色に戻っていた。
だからこそ、私は初めて出会った彼に疑われた。闇に魅入られた者だ、と。
それでも彼は、私を監視しながらも普通の人として扱ってくれる。
悪を許しはしないけれどその奥にそれ以上の優しさを持つ彼は、私が知っていたよりも芯が強く暖かい人で。
一緒にいるうちに、もう引き返せないくらいに心を奪われてしまった。
私、本当にこの世界にいていいのかな。
彼に闇の者として処されるのは構わない。けれど、疑われたまま嫌われて生きていくことになったらどうしよう。
私は心の重みに耐えかねて、コスモスの中に腰を下ろした。
長く伸びた茎の頂点で、ふわふわと揺れる花達。その隙間から見える、青い空とたなびく白い雲。
これも、秋の気配が呼ぶものなのかな。
空から刺す光の眩しさに目を細めると、目尻がほんの少しだけ湿る。
すると、離れたところからざわざわと通路にはみ出たコスモスをかき分ける音が。
その音は、徐々にこちらに近付いてきて、私のすぐ近くで止まった。
その方向に顔を見上げれば、不安そうな彼の顔。
どうしたのかと驚いて彼を見ていると、その顔はホッとしたような笑顔に包まれた。
秋の空と満開のコスモスを背負った彼は、優しい笑顔でそっと私に手を差し伸べてくれた。
ずっと先の事は、分からない。
それでも今、私はこの手を取っても許されるんだ。
私は私の出来る事をして、この想いを少しずつ未来へ繋げていこう。
この世界にいられる限り。
私はそう決心して、暖かい彼の手を取り立ち上がった。
9/22/2024, 4:36:57 AM