なこさか

Open App




 ある日の姉弟



 とある日の昼下がり。開けていた窓から心地よい風がやって来て、部屋のカーテンを揺らす。

 「すっかり涼しくなったね。カーディガンとか羽織ったらちょうどいいくらいだ。ほら、姉さん。見てみて」

 向かいに座っていた彼が大きく伸びをして、頬杖をつきながら窓の外の景色を見る。私も釣られて窓の外を見やった。
 外は雲一つない青空。夏と比べると幾らか落ち着いた光と温もりの日差しが降り注ぐ。

 「姉さん。今度の休み、一緒に散歩に行かない?天気予報だと数日はこんな感じらしいよ」

 「別に構わないよ。部屋に籠りきりだと身体に毒だからね」

 やった、姉さん大好き、と他の女の子が見たら黄色い歓声をあげるような甘い顔立ちの弟が無邪気な声をあげる。
 しかし、私はそんな弟に対して小さく息を吐いた。

 「あのねぇ、お前も年頃なんだから彼女の一人でも出来ていてもいい頃じゃない?夏場のプールや海や花火のお誘い、全部断ったって聞いたけど」

 「え?僕には必要ないよ」

 一刀両断だった。弟は本気で分からないという表情で、私のことを見つめ、無邪気に微笑む。

 「僕には姉さんがいたら、それでいいんだ」

 恋人を見つめるような甘やかな眼差しで弟は照れたように笑う。私はその様子に再度深く息を吐いた。しかし、彼の頭の中は次の休日のことで頭がいっぱいのようだった。

 「散歩だけじゃ味気ないよね。軽食を用意して、ピクニックみたいにしてもいいかも。やっぱりサンドイッチかな?」

 「……」

 目を輝かせて楽しそうにする弟の姿は小さい頃と変わりない。それでも許してしまうのは、やっぱり弟が可愛いからだろうか。

 (……まあ、いいか。楽しそうだし)

 私はすっかり温くなったラテを一口飲む。
 外は雲一つ無い青空。弟と散歩に向かうその日まで晴れていてほしいと、私は密かに祈った。

10/18/2023, 10:42:27 PM