いぐあな

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300字小説

狸和尚

 和尚の鋭い眼差しが苦手だった。人に化け、見習として住み着いた私を見透かすような眼差し。内働きをしているときも、読経中も、その研ぎ澄まされた視線を感じる度に、毛並みが毛羽立つような思いをした。
『……絶対に正体がバレている……』
 しかし、妖狐とのなわばり争いに負けた間抜けな狸の私には、もうここ以外、どこにも行くところは無い。和尚も私を追い出すことはせず、寺において僧侶としての修行を続けさせてくれていた。

『この寺はお前に譲る』
 和尚が亡くなり、四十九日の法要がすんだ後、私は檀家総代から、彼の文を渡された。
「……良き跡継ぎが出来たと喜んでおられましたよ」
 総代の言葉に私は本尊に向かい、深く深く頭を下げた。

お題「鋭い眼差し」

10/15/2023, 11:05:25 AM