かたいなか

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「言葉は要りません、ただ行動で示してください。
言葉は要りません、ただスクショを貼り付けるだけで、画像から検索が可能です。
言葉入りません、ただ記号をタップしてください。
『はいらない』を『は要らない』にするか、『入らない』にするか程度は選べそうだな」

つっても俺にはバチクソ難題過ぎるんだが。
某所在住物書きは天井を見上げ、ため息を吐き、
去年そもそも何を書いたかを確認しようとしてスワイプが面倒になった――これを回避するために個人サイトを活用しようと準備していたのに、そのサイトが今月27日でサ終したのだ。

「言葉、ことば。ただ云々。……何しろって?」
再度、ため息。下書きのメモ帳アプリになかなか言葉入らない。ただ・・・

――――――

『言葉は要らない、ただ見てください。』
それを「百聞は一見にしかず」というのでしょう。
東京の水害に対する脆弱さを言葉より視覚によってガッツリ認識した物書きです。
今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。ざーざー降りなその夜は、雨が酷く降っていて、風もそこそこ吹いていて、川にかかる橋を渡る人間は、それぞれ惨状を動画に撮っておったのでした。
一部の階段は滝のようで、一部の道路は川のようで、一部のマンホールは、噴水のようでした。

で、その状況を見に行きたいと駄々っ子全開の子狐が、深めな森の中の稲荷神社におりまして。

「諦めなさい。階段が完全に川になってるんだ」
おそと連れてって!滝に噴水に連れてって!
現代時間軸、かつリアルタイム風の物語にあるまじく、稲荷神社のコンコン子狐、人間に化けたお父さん狐に飛び付きます。
なのに父狐、子狐を外に連れてってくれません。
「この神社だけじゃない。歩道橋も、地下の駅も、じゃぶじゃぶ水浸しなんだよ」

この父狐、いつもは人間にしっかり化けて、某病院で漢方医をしておるのですが、
賢く美しい、稲荷神社近くでお茶っ葉屋さんをしているお母さん狐から、稲荷神社に雨宿りに来た動物や人間たちのためのお手伝いを頼まれたのです。
行き場に困った人間たちに、茶っ葉屋の宣伝も兼ねてお茶を振る舞う手伝いを、頼まれたのです。
商売上手ですね。 賢い狐なのです。

「連れてって!おそと、連れてって!」
ここココンコンコン、ここココンコンコン!
雨宿りに来た人間に渡すお茶を次々準備する父狐に、子狐ぴょんぴょん。飛び付きます。
「ほどーきょーの川、地下の駅の滝、見る!」
「歩道橋が川になっている」とか、「地下の駅が雨漏りしている」とか、言葉は要りません。
子狐はただ見たいのです。それを知りたいのです。
やんちゃっ子ですね。 そういう子狐なのです。

「おとなしくしてなさい。ね。いいこだから」
「ヤダ!見る!おそと、連れてって!」
「そのお外に行くのが、今とっても危ないんだよ」
「だいじょーぶ!おそと、連れてって!」

「んんん……」

ダメだ。子狐に全然忠告の言葉、入らない。
ただただ困ったコンコン父狐。どうしたものかと悩みます。どうしようかと考えます。
「よし。それじゃあ、」
父狐、傘を持って子狐抱いて、ほんのちょっとだけお外へ行きます。ざーざー降りの夜を歩きます。
「ちょっとだけだぞ」
『百聞は一見にしかず』。どうして今外に出るのが危ないか、どうして今おとなしくしているべきか、稲荷神社に至る階段の前まで歩きます。

「わぁ」
コンコン子狐、父狐の腕の中から、ゴウゴウ相当な水量で流れ落ちる「階段の滝」を見下ろしました。
「たいへん」
『百聞は一見にしかず』。自分はこの中を「泳いで」神社の外に行かねばならないのだと気づいた子狐は、父狐の言う通り、社内でおとなしくしておったとさ。

8/30/2024, 6:21:16 AM