『さよならを言う前に』
[ねぇ、ちょっとドライブ行かない?]
この夏でこんがり焼けた肌をした君に、そう言われた。
一緒に住んでいるものの、最近はお互いあまり話せていない。その分、この発言に驚いた。
「え。いーけど。」
[じゃー乗って!帰ってきたばっかで、エンジンかけっぱだから。]
そう言って手を引かれて、私の気持ちは追いつかないままヘルメットをつけた。彼の後ろに座ると彼は私の手を握り、お腹に巻き付けた。彼の背中はあったかかった。
[危ないから、ね、]
「あー。うん。」
[じゃあ、出発します、。]
「お願いします。」
どらいぶ。このワードだけでドキドキしたのは何時ぶりだろうか。着いた先は碧い景色が地平線まで続く海だった。
[どぉ?海。我ながら結構センス良くない?!]
目をキラキラにして私に問いかけるあなたは、お母さんに自慢したい子供みたいだった。
「うん、いいねたまには。海。」
えへへ、とあなたは笑ったかと思いきや、真剣な顔してこちらを向いた。
「え。なに急に、」
[俺、すきだよ。海もあなたも。]
そう言うと彼は急に海に向かって叫んだ。
[大好きだよぉぉぉぉぉ!]
「え?」
[叫んでみてもいいかなって。好きって]
「急に叫ばないでよ―じゃあ、わたしも。」
「大好きだよぉぉぉぉ!」
久しぶりにほんとうの思いをさらけ出せたような気がした。この日見た海は、今まで見た海の中でいちばん綺麗だった。
彼はさよならを言う前にいなくなってしまった。
あの日見に行った海は、ただの水の塊になっていた。
8/21/2024, 2:37:40 PM