作家志望の高校生

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「さむい。」
実に単純で、実に切実な3文字だった。隣でガクガク震えている彼は、代謝が悪いのか寒さに滅法弱かった。
「……もう帰ればいいじゃん。」
「やだ……う〜……さむ……」
なぜそんなに震えているのに外に居ようとするのか、僕には理解できない。寒いならさっさと帰ればいいのに。
「……なんで?」
「ん〜……」
さっきからずっとこの調子だ。寒い寒いと言う癖に帰らない。理由を聞いても曖昧に唸るだけで答えない。不可解すぎてそろそろイライラしてきた。
彼の指先はかじかんでいるのか真っ赤で、鼻の頭や頬も色付いている。そこらの紅葉よりずっと赤くて見るからに寒そうなのに、なぜそんな無理をしているのか。
「……もう僕も帰る。君も帰れば。」
突き放すように言うと、彼はあっさり頷いた。あの頑固さは何だったのだろうか。
今年は秋が短くて、暑かったかと思えば急に冷え込んだ。連日最低気温は一桁台で、最高気温も20度に満たない。冬のような秋だ。
2人並んで、気まずい沈黙の中、アキアカネが飛び交う夕暮れの下を歩く。家も近くなった頃、もう一度彼に聞いてみた。
「……結局、なんであんな頑固だったの。」
彼は少しだけ躊躇って、それから口を開いた。
「別に……もうちょっと一緒にいたかっただけだし……」
彼の顔は相変わらず真っ赤で、耳の端まで紅が差している。
「……ふーん……へぇ……そう……」
思ったより下らなくて可愛らしかった理由に口角が上がりそうになるのを抑えつけ、曖昧な返事をしておく。彼の顔が真っ赤なのも、今だけは寒さのせいだけじゃないと確信できた。
「……ねぇ、明日も一緒に待ってよ。……今度はちゃんと上着着てね。」
自分から発されたと思えないほど柔らかい声が出た。
今年の秋は去年よりずっと寒い。冷たい秋風が体の末端を容赦なく冷やしていく。紅葉も無くて、木々の葉は色付く前に枯れてしまう。
けれど、僕達の仲はきっと、去年の秋よりずっと温かく、そして綺麗な色で彩られている。そんなことを自覚すれば、この秋風も、暖かくて綺麗で愛しいものに思える気がした。

テーマ:秋風🍂

10/23/2025, 7:52:16 AM