きっと忘れない
恋愛なんて、ぶっちゃけ僕の人生には必要ないと思っていた。
だけどあの夏、君が駅のベンチで、「もう少し一緒にいたいかも」と笑った時、僕の心臓はうるさいほど鳴り出した。
でもすぐその後、君は目を伏せた。
「ごめん、今のは忘れて」
――忘れないよ。
そう言うのが正解だったのか?
でも、僕は胸がざわついて何も言えないままだった。
今でも思う。あれは、ちょっと……ずるいだろ。僕の心に勝手にデータを書き込んで、即削除、みたいな。
夏が終わった時、君は友達のままで離れていった。
僕も忘れることにしたんだ、以下は脳内で作成した忘却メモ。
君について忘れること
・待ち合わせた場所で会えた時の、照れくさそうな笑顔
・ソフトクリームの下手くそな食べ方
・キラキラ光って見えた髪の毛
・サイズの合ってないブカブカの服
・語尾に「〜的な?」をつける口癖
・メニューを選ぶ時全く迷わないこと
・駅の改札で、うまくタッチできずにもたついていた後ろ姿
・家族とうまく行ってないと打ち明けてくれた時の横顔
・ずっと大切そうにしていた、ちょっと変なキーホルダー
全部まとめて削除したつもりだったんだけど。
この間、君を見かけた。
隣には恋人らしき人。
なのに僕の頭の中では、あの夏の君の笑顔や寂しい横顔がリプレイされていた。
「うわ、削除したデータだぞ、勝手に再生されるのやめてくれ!」
って心の中で叫びたい気持ちだったよ。ほんと情けなかった。
君は今、幸せ?
そうでありますように。
僕は、あの夏から恋なんて必要ありませんので……
誰か忘却の仕方を教えてください。
8/21/2025, 2:53:21 AM