未知亜

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 初心者向けパソコン講習で隣になった人だった。小声で尋ねられた操作をたまたま私が知っていて、大げさに感謝された。帰り道の方角が同じでなんとなく一緒になった。
 初めて合った相手だから気軽に話せるのだろうか。親のこと、出自のこと、普段の悩み事。電車のなかで彼女は淀みなく話を続けた。さっき講師が言っていたようにAIに聞いてもらえばいいのに。
 夢を語りだした彼女に話を合わせる。とっくの昔に諦めた夢は、言葉を重ねるほど薄っぺらく床にこぼれた。
「ありがとね楽しかった」
 名前も知らない相手が先に電車を降りていく。空いた壁際の席に私は移動する。
 地層のように重なった夢の断片から、どろどろと血が流れていく。

『夢の断片』

11/22/2025, 9:22:23 AM