koyagi

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「先輩、ちょっと話しませんか」
「ん?いいよー!バレないようにね笑」
ついに、明日は3年引退の日。
明日になって欲しくなくて、帰りたくなくて、
思わず先輩を引き留めてしまった。
本当は、校門前に溜まって話すのはダメだけど、
どうしても話したくて学校のシンボルでもある
大きな木を都合よく利用させてもらうことにする。
木の影に隠れて、暗くなった蒼い空の下、
僕と先輩は沢山の話をした。
「本当に、引退して欲しくないです」
「僕達だけでやっていける自信がなくて__」
全部本心だったけど、
やっぱり家に帰りたくないだけだった。
そんな長い話にも先輩は笑顔で頷いてくれた。
「大丈夫だって笑」
「私達も最初は怒られてばっかだったしさ」
「それに、」
先輩は僕の目を見て微笑んだ。
「君が1番頑張ってるの、知ってるよ」
あぁ、
なんでこの人は、先輩は、
こんなにも欲しい言葉をくれるのだろうか。
だから、引退して欲しくないんだ。
この先輩にいて欲しいんだ。
「ありがとうございます…っ」
そして、
「今までありがとうございました、」
深々と頭を下げた。
精一杯の感謝を伝えたかった。
自分の声が、震えていた事には気づかなかった。
「ううん、こちらこそありがとう」
先輩の声も震えていた。
泣くのは明日にしよう、と2人だけの約束をして、
今日はもう帰ることにした。
名残惜しそうに手を振って歩き出した先輩の背中を、
僕はただ、目に焼き付けた。
貴方みたいな素敵な先輩になれるように。

10/12/2024, 11:24:53 AM