きゅうり

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小さな身体で、小さな手で。しっかりと、少年は1発で人を殺せてしまう火器を握りしめていた。
その目には紛れもない恨みと憎しみと恐れが浮かんでいて、後ろで震える妹を俺から守るように少年は立ちはだかっていた。

なんのために戦ってるんだ。

この光景を見て俺は思った。

俺は母国の家族を守るために戦ってきたはずだ、そしてきっと、目の前の少年も後ろの家族を守るために今戦おうとしている。

確か、義務じみた行動の根底にあるのは家族を守りたいという愛だった。

目の前の少年も、妹を守りたいと言う、妹への愛が彼を突き動かしてるんだろう。

でも、現実はどうだろう。たとえここでどちらかが生き残ったとしても、家族を守れたとしても、人を殺したという事実は二度と消えない。きっとその事実は、罪としてどちらかの肩に一生重荷として乗り続けるのだろう。

なんともバカげた話だ。

最初は母国への愛だとか、責任感とかいうものに動かされて、母国を守るために働いて来たはずなのに、目の前の戦場が繰り広げる現実は、惨憺たるものになっている。

敵国だと言い聞かせて、何人もの軍人を殺した。

でも、後になって考えてみれば俺が殺した軍人も国にいる家族を守りたくて、愛する母国を守りたくて前線に立っていたのかもしれない。

そう思うと、人を殺した罪の意識が鮮明になって、背中に罪悪感という名の重りがずしりと乗った気がした。

そういえば、この戦争の始まりは、我が国の王女がこの国の人間に殺されたことが始まりだった。
王女を殺した人間は、確か我が国の政策によって生活に影響を与えられて、家族を失った苦しみから報復として王女を殺したんだった。

あぁ、結局始まりも、他者への愛が故の復讐が原因だった。

人の恨みは終わらない。大切なものを奪われたら、怒りを抑えることは難しい。

人の欲も終わらない。国の上に立つ人間は、富や地位に目をくらませて、戦争へと走る。

国が戦争に走るなら、国民は家族を守るために動かないといけない。
時には大切な人を守りたいと言う、純粋な愛のために人を殺さなければいけない。

酷く馬鹿げてる。あまりにも醜い。

小さな子供が銃を手に取り人を殺さなければならない。愛のために。
平和な世であればその手は違うものを手に取っていたかもしれないのに。

そう思うと、もうこれ以上、母国のために動く気にはなれなかった。

ゆっくりと俺は少年に近づく。
震える手でもしっかりと彼は銃口を俺に向け続けていた。
攻撃の意が無いことを示すために俺は持っていた銃も防弾チョッキも全て外して手を挙げながら彼の元へと歩き出した。

そうすると、彼は震える手をゆっくりと下ろし始めた。
俺の思いが伝わったようだった。

少年の目の前に着くと俺は彼の目線に合わせるようにしゃがみ込んだ。

震える彼の手を握って、そっと俺は小さな身体を抱きしめた。
その行動は懺悔をするようでもあった。

誰かを想う気持ち、愛のために、もう誰も傷つけたくはなかった。

そして俺はただただ、この愛が俺たちに少しでも早く安寧をもたらしてくれることを願った。

―――誰がための戦

お題【愛と平和】








3/10/2024, 4:03:35 PM