—厨房の中から—
久しぶりに店に帰ってきた。ここは、父が経営する小さな中華料理店。
客足が途切れない、地元住民から愛されている店だ。
最近、店は休業している。
父が交通事故に遭い、入院しているからだ。命に別条はないものの、骨折がひどく、店を開ける状態じゃない。
「数日だけ、店をお願いしたい」
三日前、都内の中華料理チェーン店で勤務している僕の元に、父から連絡があった。
だから僕は今、厨房に立っている。
見習いの身であるが、今だけは立派な料理人でなくてはならない。
開店時間になった。
「いらっしゃいませー」
客が雪崩れ込んでくる。次々と入ってくる注文をひたすら捌く。鍋を振り、皿を並べる、これを繰り返す。
「ご馳走様です」「おいしかったです」なんて言葉を耳にして、僕は「ありがとうございましたー」と返事をするが、手は止めない。
夢中だった。
気がつけば、閉店時間が近づき、客も減ってきた。無事、初日を乗り切る事ができたと、胸を撫で下ろした。
閉店時間になりシャッターを閉めようとすると、車椅子に乗った父と、それを押す母がやってきた。
「悪いな、急に頼んで」父はそう言い、
「本当にありがとうね」母も笑顔で続けた。
僕は二人を店内に入れ、厨房がよく見えるカウンター席に来てもらった。
「二人に見てほしい」中華鍋を振るい、十年ぶりに見せる僕の姿を父と母に届ける。
皿に綺麗に丸く盛り付け、二人の前に出した。
「チャーハンです」
「いただきます」二人は一口食べた。目には涙が見えた。
「成長したな」そう言われて、僕の目にも涙が浮かんだ。
今日、僕はいくつもの夢の断片を見た。
お題:夢の断片
11/22/2025, 5:38:02 AM