白糸馨月

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お題『世界に一つだけ』

 この世に『私』は一人しかいないと思っていた。学校帰りに自分と瓜二つの人間の姿を見るまでは。
 私が彼女と出会ったのは、電車の中だった。田舎だからいつもどおり一つの車両につき、二人くらいいればそれが普通だった。
『ドッペルゲンガーに会ったら、近い内に死ぬ』
 という噂を友達から聞かされていたけど、正直そんなのは迷信だと思う。が、その一方で相手も私に気がついたようで、失礼なことに「ひっ」と声を上げていた。
 私は思わず声をかけてしまった。
「怪しい者じゃないですよ」
 と。そうしたら彼女は
「でも、ドッペルゲンガーに会ったら近い内に死ぬって友達に言われて」
 と返してきた。次の駅までまだ時間がある。彼女はどうにも居心地悪そうだった。
「では、お互いに生存報告しましょうか?」
「生存報告?」
「えぇ。正直自分に似た人間と出会ったら死ぬ、なんておかしな話じゃありません?」
「た、たしかに……でも」
「初対面の人と連絡先交換するのは怖い、ですか?」
 その言葉に自分に似た少女は頷く。まぁ、普通知らない人に急に話しかけられたら誰でもそうだよなぁと思いつつ
「でも私、本当に怪しいものではないんですよ。私、〇〇高校に通ってる加賀美と申しまして」
「あ、はい。加賀美さん」
「それで、私のLINEのアカウントはこちらになります。追加していただければ、連絡とるかどうかはそちらにお任せしますので」
「あ、はい」
 そうこうしているうちに次の停車駅が来た。彼女は立ち上がって
「あ、私はここですので」
 と、降りていった。もしかしたらいきなり知らない人に話しかけられて怖かったからかな、と思いつつ、私は自分に似た人間に向かって手を振った。

 その夜、彼女から連絡が来た。彼女も「嘉神」というらしい。こんな偶然があるものかと思わず笑みがこぼれる。
 それから十年ほど経つ今、私達は未だに連絡を取り合っている。さすがに毎日ではなくなったが、お互いの無事を確認し合っては私は実感する。
 ドッペルゲンガーに会っても、べつに死なないよと。

9/9/2024, 11:45:26 PM