【またいつか】
駅のホーム。行き交う人々。
その場に、縫い付けられたように動けない私。
動けなくて立ち尽くしているのに、周りの人たちはとても上手に私を避けて前に進んでいく。
まるで私なんて最初から、居ないかのように。
「大丈夫ですか?」
透き通るような綺麗な声に、ハッとする。
私の存在に気づき、立ち止まる女の人。
止まった時間が動き出したみたいに、私の意識もはっきりとしていく。
「え、ええ…」
「もしかして、気分悪いんですか?顔色…」
「……少し…」
特に考えずに返事をしていた。
気分が悪いわけではないと思う。でも、なんだか居心地はとても悪くてとても強い不安感に飲まれていくようだった。
女の人は、私の手を取るとベンチの所まで連れて行ってくれた。私はその手を振り払うことはせずに素直に従う。
「誰かに押されたら、危ないから」
とても優しく笑い、ベンチへ私を座らせると隣に荷物を置いて自販機まで走っていく。
ホームを流れるままに、歩いていた人たちの波は少し落ち着いていた。戻ってきた女の人が手にしていたのは、麦茶と水。
「どっちが良いですか??」
「すみません…大丈夫…」
「私2つも要らないから、良かったらもらってください!」
「ありがとう…」
私は水を手に取る。女の人はキャップを開け、麦茶をゴクゴクと音を立てて飲んだ。私も真似して、キャップ開ける。ゆっくりとした動作で、水を口に運ぶと喉が渇いていたことに気づいた。そのまま、喉を潤すように水を体内へ送り込む。女の人は、私のその様子をじっと見ていた。
「ふふ、良かった。顔色…少し戻ってきたみたい。真っ青でしたよ。」
「ごめんなさい。ご迷惑かけてしまって…」
「勝手にやったことですから!私、こんな風にすぐ人に絡んでしまうから…よくお節介だと嫌がられるんです。でも今日は、それが役に立って良かった。」
女の人は、ニコリと笑う。
声も綺麗だと思ったけど、とても綺麗な笑顔だなと思った。女の人は鞄から、メモ帳を出して、サラサラっとメモ書きすると私に渡す。
「これ、チャットアプリの私のIDなんです。名前も偽名で始められるから、もし良かったら…話しませんか?」
「え?」
「ふふ、そんなに警戒しないでください!なんだか、悩んでるみたいだったから…。偽名だし、知らない人だから相談出来ることってあるじゃないですか。良かったら連絡ください。私、仕事辞めて転職活動中で…暇なんです」
「……」
「怪しんでます?」
「…少し…」
「ふふ、正直ですね。そろそろ私は行かないと。じゃあ、またいつか!」
「あ、水…ありがとうございました」
「はーい!」
手を振りながら、女の人はあっという間に去っていく。
少し前までの不安感は、少し和らいでいたように思う。
女の人の後ろ姿を、見えなくなるまで見ていた。
7/22/2025, 1:09:10 PM