東の飯屋に恋する男

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今日の心模様




雨の街では名前の通り今日も雨が降っている。静かな空間で響く雨の音と、屋根を伝って落ちる雨垂れのリズミカルな音が心地良い。しかし今日はどうにも気分が沈んでおり、雨によって更に憂鬱感を増幅されているような。今日みたいな心模様の日こそ、空は青く晴れ渡っていて欲しいのに。
目を覚ましてから数十分、降り注ぐ雨の音に耳を傾けながらベッドの中から動けずにいる。時計の針はもうすぐ正午を指そうとしていた。起きたいけど、起きたくない。今日は何もしたくない。このまま寝てしまいたい。何も考えたくないのに頭は思考を止めない。不安な事、怖い事、過去の事、この先の事。あっちこっちを思考が巡り全部が嫌になって泣き出しそうだ。何も考えずにもう一度寝てしまいたい。布団で頭を覆った。それでも思考が止まることはなく、カチカチと時計の針が動く音がやけに大きく聞こえる。
増幅した憂鬱感に襲われただ1人で悲観する事しか出来ずにいると、部屋の外をコツコツと歩く音が近付いてきた。同居人で間違いないが、今は絶対に情けない顔をしている為顔を合わせたくない。案の定扉が2回ノックされ、優しい声色が名を呼ぶ。
「ヒロ、起きてるか?」
返事をしようと思ったが声が出ず、か細い声で「うん」と答えたがおそらく自分にしか聞こえていないだろう。
「……入るぞ」
俺の返事が聞こえたのか聞こえていないのか、少しの間の後部屋の扉が開かれる。晴れた日の空のような髪色をした同居人が顔を覗かせた。今の俺が見たいのは雨模様の空ではなくこの髪色のような鮮やかな青い空なんだよな、なんて。
「起きてるじゃん。おはよ、具合悪い?」
昼頃になっても起きてこない俺を心配したのか、ベッドの傍に来て彼は優しく俺の額に触れた。具合が悪いわけではない。俺は小さく首を横に振る。
「そっか。今日の昼飯はあんたの好きなもの用意してるからさ、気が向いたら来いよ」
これだけで気使い屋な彼は俺の心模様を察したようで、額に触れた手でそのまま髪を優しく撫で微笑む。優しい手付きと温もりが恋しくて、微笑みは俺を大切に思ってくれているみたいで愛しくて、むず痒いけど、嬉しい。去ろうとする彼の手を引き止め、頬を擦り寄せる。大好きな人がそばに居てくれて、大好きな人が想ってくれて、彼の存在に心の憂鬱が少しずつ流されていく感覚を覚えた。太陽のように輝かしい、なんて言葉が似合うような人ではないけれど、俺にとっての彼は雲間に浮かぶ控えめな太陽のようなものなのだろうか。ベッドで憂いてないで、さっさと起きて彼の顔を見に行けばよかったのだ。
「好き……」
ふと口から零れた本音の言葉に彼は驚いた顔を見せるが、すぐに眉を下げては嬉しそうに笑った。
「知ってるよ」

4/23/2024, 4:32:34 PM