なつめぐ

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『イマジナリーフレンド』


「ただいまー!」

玄関の扉を開ける。靴を脱ぐ時間ももどかしく、適当に放り出し自分の部屋へと駆けた。
自分の部屋のドアノブを回す。勢いよく扉を開け、声を張る。

「先生!」

自分が思っているよりも高い声が出た。そんなに心が弾んでいるのだろうか。そんなことを冷静に分析する自分もいる。
窓の外を見ていた先生はゆっくりとこちらを振り返る。目を細めて優しく俺の名を呼んだ。それだけで胸がドキドキと高鳴る。
先生と一緒にベッドに腰掛ける。

「おかえり、今日はどうだった?」

俺の顔を見ながら先生はそう優しく問う。俺は今日あったことを身振り手振りしながら話をした。先生は優しい顔のまま、うんうんと頷きながら聞いてくれる。

「今日も頑張ったな、えらいぞ」

毎回、俺の話が全部終わると先生はそう言い俺の頭を撫でてくれる。俺はその時間が好きだった。先生が俺だけを見てくれるから。
俺は頭にある先生の手の暖かさに甘えるようにすり寄よった。



ーー



「…お兄ちゃん」

開けっ放しの扉からお兄ちゃんの部屋を見る。お兄ちゃんはベッドに座り、誰かと話しているようだった。私が名前を呼んでも反応しない。ただ、誰もいない空間に話しかけているだけだった。
お兄ちゃんは変わってしまった。あの日から人が変わってしまったように仕事人間になってしまい、虚ろな目で毎日を過ごしていた。ただ、ある時を境にまた笑顔を見せるようになった。最初は安心したのだが、お兄ちゃんは何処にいる時も誰かと話しているようになってしまった。私たちには見えない、誰かと。明確には聞いていないが、お兄ちゃんが話しているのはあの人だろう。……もうこの世にはいない、お兄ちゃんの先生だった人。あの人が亡くなった時お兄ちゃんは酷くショックを受けて、何も出来なくなってしまった程だ。それほど、お兄ちゃんにとって大切な人だったのだろう。

「……お兄ちゃん…!」

少し声を大きくし、もう一度呼びかける。しかし、お兄ちゃんには聞こえていないみたいだった。こちらには向かず、頬を染めて小さい子のような笑みを浮かべている。……あの人に対してはそんな顔するんだね。

家族なのに声が届かない、そんなもどかしさが募っていく。




【現実逃避】

2/27/2026, 3:12:37 PM