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今日のお題『元気かな』

そう訊かれたので答えてみる。
体の状態で言うとスーパー銭湯で誰かにうつされたと思われる水虫は高い塗り薬を塗布しているのに一向に治る気配をみせないし、心の状態で言うとなんだかよく分からない感じで金がぶっ飛んでいく時期なので、漠然とした将来への不安が募って気分が沈んでいる。
ようするに、あんまり元気じゃない。
でも現実でそう人に訊かれたら俺はきっとこう答える。
「ああ、はい、元気ですよ、はは……」
思い返してみれば、小学生の頃に朝のHRで先生から今日の体調を訊ねられた時以来、ずっとそうだった気がする。
だって皆だって嫌だろう。
『元気ですか?』って何気なく聞いてみたら『元気じゃないです…』ってしにそうな顔で呟いて急に自分語りを長々と話し始めるヤツなんて。
俺だってそうだ。
『元気かな』って聞かれたら本当は元気じゃなくても「元気ですよ~! 今日も一日頑張りましょ~」ってカラっとした笑顔で言ってくれる人のほうが好きだ。
だから俺もそうしている。
……ぶっ壊さなければならない。そんな悪しき建前は。
そもそも皆なにかしら体や心に不調を抱えながら現代社会で生き続けているのだ。元気なわけがない。
元気がない時には『元気じゃないです……』って言うべきである。助けてほしい時には『助けてください』と言うべきなのだ。
皆がそう言える世の中にするためにも意識改革を行う必要がある。
そのために俺は今のろくでもない人生の全てを犠牲にできる覚悟があった。

とは言ったものの……
(さて、どうするか……)
ディープステート関係の陰謀論を声高に語るユーチューバーの動画を視聴しながら考える。
やはり、ここは味方を集めるべきだろう。
一人で叫んでみたってそれは俺が見てるユーチューバーのように、ただの気が触れた頭のネジが外れた人だ。けれど皆で言えばおかしいことでも正論のように思えてくるのを俺は知っていた。
仲間を集めなくては……
スマホを開いてアドレス帳を見る。ちょうどよく高校や専門学生時代の旧友たちの名前が並んでいた。
『みんな、突然だけど聞いてくれ! 元気じゃない時に元気ですって答えなくてもいい世の中にしよう!』とショートメッセージを作成し一斉送信しようと思ったが……いや、思う前にやめた。
かつての同級生たちは家庭を持っている人や、それなりの役職に就いている人もいる。黙って縁を切られるだけならまだしも、優しい旧友たちは良い大人になった俺を説教してくるかもしれない。大人になってからの説教はありがたいが、される本人はたまったものじゃない。新社会人の人は知っておいてほしい。大人になってから叱られるのって一番効くのだ。

それはさておき、旧友たちの名前を久しぶりに目にして懐かしさを覚えた。
みんな『元気かな』
もう何年もやり取りしてない人がチラホラいるけど、名前を見れば、かつての面白い思い出が頭に浮かんでくる。
元気でいてくれたら嬉しい。
ユーチューバーによると、世界はエイリアンと契約を結んでいる上流階級の人々に支配されているらしい。だとしても俺は大切な人たちが元気でいてくれればそれでいい。
その人たちが今元気じゃなかったとしても、『元気かな』と思いを巡らせるのは俺の自由だ。
仮に『元気かなと思って』とメッセージを送っても、みんなは『元気だよ、そっちは?』と返してくれるだろう。
そう返してほしいと俺も望んでいる。
だから意識改革の件は白紙に戻そう。
そしてくだらないことを考えるのはやめて仕事に行こう。出勤の時間だ。

4/10/2025, 5:53:27 AM