裏表のないカメレオン

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「何回殺そうと思ったか」
 ゴミ箱のように醜悪な言葉だ。まだ目を合わせづらい僕はしかし、彼に同調した。
「わかる」
 これは紛うことなき本心だった。同意するのは確実に自分を落とすような真似だ。けれど彼の口をついてでたのはまるまる僕の言葉だったからしかたない。
「この仕事向いてないわ」
 どちらともなく愚痴は溢れる。ふだん仲悪いくせに、こういうときつくづく同期だなと思えた。
「あとちょっと、頑張ろうぜ」
 そう言って、それぞれの仕事に戻る。
 この業界ではそこかしこでこんな場面が生まれている。

1/15/2024, 1:23:19 PM