授業中、クラスの皆で薄暗くした教室で退屈な教材のDVDを見ていた時、二の腕にツンツンと触られた感覚があって、僕は左隣の蓮見さんのほうへ目を向けた。蓮見さんは1枚のルーズリーフを僕の方へ差し出している。左上に『しりとり』の文字、その右に『→』があって、さらにその右にはリンゴと思しきイラストが描かれていた。
「絵しりとりしよ」
蓮見さんがささやき声でイタズラっぽく笑った。僕はその様子に少しドキリと胸を鳴らしながら、何事もなかったかのように無言でルーズリーフを受け取った。それを見て蓮見さんがまた満足気に小さく笑った気配がする。僕は蓮見さんの描いたリンゴの隣に、ささっとゴリラのイラストを描いた。上手くはないが、ゴリラだとは伝わるだろう。たぶん。
僕は蓮見さんがさっきそうしたように、彼女の二の腕をツンツンしようとしようとした。けれど、何だかいけない気がして、直前でやめる。そして、隣の彼女へ「ねえ」と小声で声をかけた。
退屈そうに映像の映ったスクリーンを眺めていた蓮見さんは、僕の方へ目を向けて、僕が差し出すルーズリーフを受け取った。僕の描いたゴリラっぽいイラストを見て、
「王道で来たね」
とまたささやき声で笑う。
それから、数秒でラッパのイラストを描いて、僕へ差し出した。
「蓮見さんこそ」
僕がそうささやき声で返しながらルーズリーフを受け取ると、蓮見さんは楽しそうに笑った。
時には笑い、時には「やられた!」と苦い顔をし、時には感心し、僕らは絵しりとりを続けていく。合間で、僕らのささやき声の応酬も続いた。
僕はくるくる変わる蓮見さんの表情に密かに胸を高鳴らせながら、退屈な授業中のふたり遊びを楽しんだ。
4/22/2025, 8:39:34 AM