私、永遠の後輩こと高葉井の、日課になってるソシャゲに、ラストアップデートの予告が来た。
アプリ内では先週から、アプリからしか辿り着けないティザーサイトのリンクが公開されてた。
推しが勤務してる部署っぽい場所で、推しーズが日に日に色々なものを、段ボール箱の中に詰めてって、
そして今朝になって、その部署にひとつだけ残ったホワイトボードに、推しの筆跡でもって
【重要】
ラストアップデートと
■■■■■■■■■■■■のお知らせ
って書かれてた。
■の部分は分からない。いろんな憶測が出てる。
推しゲーの運営から、ひとまずここに入る文字は「サービス終了」ではないことは明言されてる。
■の1個に1文字入ることも、判明してる。
文字数的に「今後のロードマップ」でもないし、
「課金停止と返金方法」でもなさそうで、
今のところ界隈では、「『有料メモリアル版リリース』のお知らせ」だろうってのが有力候補だ。
■で隠された文字については今日の夜、21時から配信の公式動画で先行公開。
明後日日曜日の午前0時0分ジャストにティザーで正式発表、とのことだった。
皆みんな、界隈は阿鼻叫喚だ。
この約10年で散々更新を重ね続けて、システムとかコードとかがゴッチャゴチャになってるってリークは、2年前から表に出てた。
私も何回も何回も、今朝公開されたラストアップデートの内容を読んで、読んで、読んで、
気がついたら、停留所をひとつ乗り越してた。
私の職場の私立図書館は私の推しゲーの生誕地で、
私の推しゲーの聖地だから、
その日は、十数人の来館者が開館前から並んで、
そして、一部のひとは推しぬいを連れてきてた。
皆みんな、再度言うけど、阿鼻叫喚だ。
「顔色が悪いぞ。高葉井」
推しゲーの聖地であるところの自分の職場の中に入ると、いろんな思い出が頭をよぎって、
気が付けば先輩が心配そうに、私の顔を見てた。
「世界が終わるような顔をしてる。
苦しいなら、副館長に相談してみたらどうだ」
世界が終わるような顔。
世界が、終わるような顔。
そりゃそうだと思う。
もしも世界が終わるなら、
私はきっと、今みたいな顔をしてるんだと思う。
事実、ホントに私の推しゲーの世界が、もしかしたら近い未来、終わっちゃうかもしれないのだ。
約10年くらい続いたゲームだった。
良心的で、ガチャはよく引けるし、
ピンポイントでピックアップキャラを選択指名できるチケットも、マンスリーパスで数枚貰えた。
他のゲームより凸の条件は緩くて、ミニゲーム豊富で、新規コスも新規ボイスも多かった。
それが、ラストアップデートを迎えるんだ。
最後の告知が配信されるまでの数時間を、
この感情を抱えたまんま、
私は自分の推しゲーの聖地で、生誕の地で、
仕事しながら、過ごすことになった。
そりゃ、「もしも世界が終わるならこんな顔になるだろう」って顔にもなると思う。
「はーい、おはようございます」
朝礼が始まって、オネェな副館長が職員室に入ってきて、席に、つく前に念入りに周囲を確認してた。
ホントに職員以外誰も居ないでしょうね、と。
「もう知ってる人も多いと思うけど、アタシたちの図書館が聖地になってる例のゲーム、ラストアップデートの告知が入ったわ。
当館でも明日から、コラボイベントを始めるから、
閉館後21時から手伝える人、残ってちょうだい」
アナタどうする?
私が推しゲーやってるのを知ってて、副館長が私の方をチラッと見てきた。
21時といったら、公式が動画を出す時間だ。
パスします——私は副館長に、小さく首を振った。
「酷い顔ね高葉井ちゃん。世界が終わるみたいな形相になってるわよ」
「藤森先輩にも言われました」
「コラボ準備、本当に手伝わない?」
「予定があるのでちょっとパスです」
「公式より先に引っ越しセット配布するわよ」
「すいません待ってください何ですかその引っ越しセットってどういうことですか」
「うふふふふ」
気が変わったらいつでも言いなさぁい。
オネェ副館長はニッコリ笑って、朝礼を進めた。
私は副館長が言った「引っ越しセット」っていうのが分からなくて、混乱してて、
もう「もしも世界が終わるならこういう顔」っていう顔じゃなくて、「もしも謎解き世界に迷い込んだらこういう顔」って顔になってた。
副館長は、まだニヨニヨしてる。
悲しめば良いのか、喜べば良いのか、悩めば良いのか、私はその日のお昼休憩まで、混乱してた。
急展開はそのお昼休憩に起こったけど、
まぁまぁ、以下略、以下略。
9/19/2025, 4:18:38 AM