"もしもタイムマシンがあったら"
「なぁ、もしタイムマシンがあったらどうするんだ?」
「急に何を言い出すかと思えば、貴方にしては珍しくファンタジーな話題だな。」
「こないだ時間潰しに映画館で観たのが、王道のSFでよ。」
「ほう。」
「んで、物語の中で"過去と未来のどちらに行くか"って問いに主人公達が議論するシーンがあってよ、俺ならどっちを選ぶか、あとお前はどっちを選ぶのか気になってよ。」
「貴方でも子どものような、可愛らしい疑問を抱くんだな。」
「うるせぇよ!!…お前ならどっちを選ぶ?」
「そんなの決まっている。」
「そうなのかよ。」
「何を驚いている。聞いてきたのはそっちだろう。」
「いや、お前ならもっとこう…じっくり時間かけて考えそうだな〜って思ってたからよ…ビックリして。」
「そうか。」
「ちなみに、俺ももう決まってっから。」
「そうなのか。なら、一斉に言ってみるか?」
「同じの言う気満々か?」
「当然だ。」
「じゃ、"せーの"っで言うぞ。いいか?」
「あぁ。」
「行くぞ?"せーの"」
「未来」「過去」
「あぁ?」「は?」
「お前"未来"じゃねぇのかよ?」
「貴方こそ"過去"じゃないのか?」
「…。」「…。」
「…まぁいい。何故"未来"を 選んだのか、理由を聞かせろ。」
「あぁ…。理由は簡単だ。俺たちの戦いの遥か先、未来でバグスターウィルスがどうなっているか確かめる為、それだけだ。」
「本当にそうか?」
「どういう意味だ?」
「本当に"それだけ"なのか?貴方の事だ、他に理由があるんだろ。」
「ウッ…、っせぇな、"それだけだ"っつってんだろ。んで、お前はなんだよ?」
「俺は、幼き日の貴方に会いたい。」
「…は?」
「会って、貴方はどんな幼少期を過ごしたのか、貴方を形作った根底を知りたいからだ。」
「は?」
「愛する者のルーツを知りたいと思うのは当然だと思うのだが、貴方は違うのか?」
「い、いやいやいや。別に、そうじゃねぇよ。…ただ。」
「ただ?」
「ガキの頃の俺を誰かに…ましてやお前に知られるなんざ、その…は、恥ずかしいっつか…。」
「そんな愛らしい態度を取る人だ。きっと幼少期はとても可愛らしいだろうと思っているが?」
「は、はぁッッッ!?…て、テメェ一体何言って…」
「まぁ本当の事を話せば、幼い貴方に会って"俺が貴方の未来の花婿だ"と言えば、運命の相手は俺だと信じ込ませる事が出来るだろ。」
「なんて事考えてんだテメェ!!いくらそれが"俺"でも、"ガキ"相手にだぞ!?そもそもお前にまだ会ったこともなけりゃ、名前すら知らねぇんだぞ!!そんな奴の言葉信用するわけねぇだろ!!」
「だが貴方は2人の時は素直だぞ?」
「それとこれとは別だ!!とにかく俺は断固反対だかんな。」
「何故。」
「何故も何もねぇよ。それに"タイムパラドックス"っつー、SFには必ず出てくる命題。言葉くらい知ってんだろ。」
「あぁ、確か…"過去の少しの改変が未来に大きく影響を及ぼす"だったか。」
「まぁそんな感じだ。」
「詳しいな。」
「うるせぇ、観た後に調べたんだよ。」
「…。」
「…な、なんだよ。」
「…なるほどな。」
「あぁ?何が"なるほど"なんだよ。」
「…いや、なんでも無い。気にするな。」
「んな事言われたら気にすんだろうが。…て、おいどこ行きやがる!!」
「御手洗にだ。続きはその後でいいか?」
「ん、まぁいいけどよ。」
「…。」
「…今より大人の飛彩、か…。どんなヤツになってんだろ。」
「ま、肩書きは予想通り、院長の後を次いで新しいここの院長になってんのが先か、今以上に引く手あまたになってんのが先か。いや、アイツの事だ。両方やってそう…。」
「…。」
「その頃には、俺たちの関係、どうなってるんだろう?」
「今と変わらずお付き合いが続いていて、こんな風に喋ってるのかな。」
「いや、もしかしたら法律が変わっていて、同性婚が認められてるかもしれない。もしそうなら、未来の俺がアイツの"妻"で未来のアイツが俺の"旦那"、になるのか?」
「…。」
「"旦那様"。」
「なんだ?」
「ッ…!?お、おま、いつの間に…?」
「数分前くらいに戻って来たんだが、何やらブツブツと独り言を話してたから終わるまで待ってたんだが。」
「うぅ…。」
「"旦那様"、か。」
「ッ…!!」
「良いな、ならば俺は"妻"と呼ぶべきか。」
「〜っ!!や、やめろ!!も、もうこの話は終わりだっ!!」
「何故だ?」
「うるせぇ!!」
「何故そんなに顔が赤い?」
「テメェのせいだろうが!!」
「…フ。」
「んだよ!!」
「俺の"妻"はとても可愛らしいと思ってな。」
「っ…。そ、そんなからかうんなら別れんぞ!?」
「それは困る。悪かった。」
「…思ってねぇだろ。」
「どうすれば許してくれるんだ?」
「うるせぇ、そんぐらい自分で考えやがれ。」
7/22/2023, 12:56:34 PM