Yushiki

Open App

 大地に寝転んで空を仰ぐ。
 流れていく雲を指さして、その輪郭を辿るように掲げた指を動かして、そうして僕は様々なことを想像する。

 あの雲はライオン。勇ましい百獣の王。立派な爪と牙に、猛々しい鬣を振り翳し、頂点に君臨し続ける。

 あの雲はゾウ。何事にも動じない巨大な体躯の内側に、熱く滾るものを持つ。きっと暴れたら一番手がかかる。怒らせてはならない静かなるドン。

 あの雲はウサギ。ふわふわで愛らしく、誰もに可愛がられる。けれど、とても強かで、生きるためにがむしゃらに跳びはねる。見た目と中身のギャップが堪らない。

 あの雲はサル。知能に長けて、狡猾でずる賢い。そのくせ、愛嬌も忘れない世渡り上手。僕のちょっとしたお気に入り。いつかこいつに似たもっと知能の高い生命を想像してみてもいいかもしれないと、実は秘かに画策してる。

 そこまで描いて僕は一息つく。掲げていた指を下ろし、寝転んでいた姿勢から起き上がった。

 さあ、今日はここまで。
 僕は今日の仕事ぶりに満足する。
 空には僕が想像した様々な生き物の形をした雲が浮かんでいる。
 空は僕のキャンバス。雲はさしずめ絵の具かな。色はまあ、ついていないけど、それはまた後で考えれば良いよね。
 ここに描いたことをこの大地に実現するまでが僕の役目。本当に大変だけど、空はまだあんなに広いし、雲も充分過ぎるほど足りてるし、何より僕はこの大地が好きで、この仕事に誇りを持ってるから、全然苦ではない。
 さあ、明日は何を創造しようかな。



【大地に寝転び雲が流れる・・・目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?】

5/5/2023, 4:50:03 AM