hikari

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明日に向かってあるく、でも

「なんか、捻れてますね」

小太りの整体師が、私の骨盤を触りながら言った。

「はぁ、ねじれ、ですか」
「はい。なんかスポーツやられてました?捻れる感じの動作の。」
「あー…まぁ、キックボクシングとかは、大学のとき少し」

整体師は、少し高めの声に切り替わり、でしょう、そうでしょうと誇らしげに言った。かといって、キックボクシングをやったのは体験のたった1回であり、そのほかにスポーツの経験はない。その体験で、そもそも体が捻れていたからだろうか、素質はあると褒められた。たぶん営業だけど。

90分の施術が終わった。全く安くない整体だが、随分と肩周りが楽になる。終了後、再びねじれの話になって、骨盤矯正プランの営業が始まった。色々めんどくさくなって、「また後で連絡します」とだけ伝えた。店を出て、地上にあがると、外は暗かった。

私の靴は、使い古すと、右足の親指部分に必ず穴が開く。これも捻れのせいだろうか。自分の今まで意識していなかった足を、感じ取りながら駅までの道を歩く。
右足を前へ。
次に左足。
右足、左足、右、左、右。

あー、確かに捻れてるかも?
捻れている、というより、左足が思うように動いていない。感覚としては、右足が前へ前へと進もうとしているのに、左足がそれに頑張って食いついているような感じ。左足の方を捻って無理やり前に進めている感じ。

私の心みたいだ。
本当は怖いのに、怖くないふりをしている。
本当はビビリなのに、劣等感で自分を奮い立たせている。
恐怖心でいっぱいの左足と、それを認めない右足。
私の身体は、思った以上に私でできているのだ。

あぁ、怖い。人が怖い。
私は本当はとても弱い。
本当はとても、怖くて怖くてたまらない。
でも、それを認めてしまってもよいのに、
認めてしまったら、私はどのように生きたら良いのか分からない。
天邪鬼な私の性格と、
矛盾した感情と、
捻れた骨盤。

都会の夜の街を進みながら、私は駅を目指す。右足だけを頼りに、強張った体を無理やり前へ持ってくる。いつか、私と私が仲良くなったときは、靴の穴の位置が変わっているんだろうか。


このお題、個人的に過去一好きです。

1/20/2025, 3:47:18 PM