—山を越えた向こう側—
「戸部さんと会えるのも、今年は最後なんですね」
ポストの中の郵便物を回収していると、村人が僕に向けて言った。何人かが集まっている。
「ええ、そうですね。でも、また来年も来ますよ」
この村は山に囲われており、冬の間は雪が止まない。そのため、郵便物を回収できるのは今日までというわけだ。春になれば、またここに来ることができる。
「気をつけて」村の人々が言った。
「皆さんも、どうかお元気で」
一礼してから、バイクを走らせた。
僕がこの町に来るようになったのは、もう二十年も前である。若い人は皆、都市部に行ってしまうので、この地域の働き手は少ない。
だからこの地域のほとんどを、僕は回っている。その中の一つがあの村なのだ。
随分と仲良くなったなぁ、と思う。
「お疲れ様です」
郵便局に、回収した郵便物を届けた。この後に仕分けを行い、郵便物を送り出す。
局員と作業に取り掛かった。
「戸部さん宛の郵便物がありましたよ」
「僕宛の?」
局員から手紙を渡された。開けると、一枚の手紙と写真があった。
『今年もありがとうございました。また来年もよろしくお願い致します。』
達筆な字でそう書かれた手紙と、あの村の皆の写真だった。
仕分けを終え、外に出て村の方を見た。
皆の顔が、頭の中に浮かぶ。写真を見て胸が痛む。また人が減っている。
「どうか長生きしてください」
郵便物を乗せ、バイクにまたがる。
——皆が生き続ける限り、僕は運ぶから。
心の中でそう呟き、僕はバイクを走らせた。
お題:雪原の先へ
12/9/2025, 4:47:27 AM