彩士

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拍手の音は雨が傘に当たる音と似ている。

ピアノの発表会で、緊張でなる胸のドキドキを抑えて、過去で一番良いと思える演奏ができた。五分半の小学生にしては長いような短いような曲を弾き、満足していたことを何気なく思い出す。
あれが最後の発表会だった。

その頃までだ。自分に自信が持てたのは。
いつからか、自分を受け入れてくれる先を探すようになった。なんの条件もなく、いいよって言ってくれる人を。得意だった友達づくりも楽しかったクラスまとめも俺なんかが言ったところで、他の中心にいる子が言った方が影響力がある。と言い訳をして、自ら動くことがなくなった。
小学校から同じやつらには、「お前、変わったな」と何度も言われた。
その度に「そうか?」と言って、自身を持つことのできない自分を認めたくなくて、はぐらかした。
自分に自信がないと、選択をするのに優柔不断になる。
チャンスが一回しかないと悲観するから。
これを逃したら、周りの人はみんな俺から離れていく。ベストな行動をしないと、周りが期待していることを言わないと。
阿呆なことを言いながら、心の裏でずっとそんなことを考えている。
人からの言葉をそのままにして受け取れない。
謝罪の言葉も、自分は悪くないと分かっているのに、反射的に「こちらこそごめん」と言ってしまう。そうして、気まずい空気が生まれてしまう。
自分を卑下して良いことがないのは、分かっている。
でも、やめられないのはなぜだろう。

どっかの本で、「人は大人になると勇気をなくす」という言葉を知った。
本当にその通りだと思う。
もう失ってしまった人は、一体どうすればいいんだろう。

信号待ちをしながら、雨が傘に当たる音を聞きながら今日も、そんなことを考えている。

8/27/2023, 11:28:55 AM