古いレコード

Open App

「凍える指先」

妻は指先がいつも冷たかったと記憶している。

冷え性だったのもあるのだが、私は冷え性の妻の手をよく擦ってあげていた。

私が留守の時は妻は私があげた手袋をしていたようだ。

妻は私の手の暖かさを好んでいたようで、頬を赤らめながら「あなたの手は暖かくて心地よい」と言っていた。

冬は寒くてそれだけでも冷えのもとになるが、私は妻とよく手を繋いだ。

そして、二人だけで散歩をした。

その妻はもういない。

一年前に病気で亡くなってしまった。

私は冷たい物を触るたびに妻を思い出している。

妻の手の感触。
妻の手が暖かくなってゆくこと。
妻が「暖かい」とポツリと言ったこと。
妻の細い手。
妻が私の目をジッと見て「あなた」と言うこと。
最後に妻の手がだんだん冷たくなっていった、病室の中。

私は妻をよく思い出す。

時に思いが強くなり一人で泣くこともある。

今年も冬が来る。

天国の妻は寒くないか。

「あなた」と私を呼ぶ声が聞こえる気がする。

雪が降ってきた。

12/10/2025, 12:01:36 AM