とうの

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青紫の夜

私が降りなきゃいけない駅に近づいてきた。この夜も、終わりに近づいている。
私と、その隣の君しかいない閑散とした車内に、車輪の音が響く。鉄橋にさしかかったのだ。──もう、残された時間は、わずか。
ふと、君が私の手をそっと握った。私は体温の感じない君の手を、両手で包む。目の奥が熱を帯び、涙が溢れてきた。
「泣くなよ、別に、もう二度と、───会えない、わけじゃ、ないんだし」
君はもう片方の手で私の髪を優しく撫でた。泣くなと言う君だって、泣きそうではないか。
…確かにもう二度と会えないわけではない、と信じていたい。ただ、会えるとしても、私が君のところへ行く日──私がこの世を去る日、それは、随分と後になるだろう。先ほど、「僕の後を追って自ら、なんてことは絶対だめだからな」と約束させられたばかりである。せめてこの夜を引き延ばすことができたら───
列車は構わず鉄橋を越えた。私は少し躊躇って、君に促されて、プラットホームに降りる。繋いだ手は離れてしまった。
ドアが閉まる直前、君は私を抱きしめて、キスをした。初めてだった。私はとめどなく涙を零す。
列車は、発車すると暁の空に消えていった。
駅から見下ろした町は、ひっそりと白に包まれていた。



11月30日『泣かないで』

11/30/2022, 1:18:28 PM