君に見つめられると、どうも僕は夏を思い出すらしい。
笑いかけられるとその瞳がぐいっと曲がるので、なだらかな山の稜線を思い描く。
あの夏、突発的強行キャンプは小さな騒ぎが起きてずっとてんやわんやしていた。誰某の物がなくなったとか、見えない犬がいるとか。
君がすべての事象を説明し終える頃には夜の焚き火もいい雰囲気になっていたっけ。
悲しんで涙を流す瞳を見ると雨の中走り回った日が蘇る。蛙が追いかけてきて二人で逃げ惑い、飛び込んだ先で事件が起きたことを。
君は痴情のもつれも何もかもをすっかり解決してなお、雨粒を鬱陶しそうに払っていた。
瞼を伏せて思考に沈む時、そこには穏やかな午後が広がる。
大学図書館で足を組み替える姿。薄暗い電灯と外の強い日差しのコントラストが君をいっそう引き立てていた。
そして理解した瞬間、「見てくれよ」とでも言うように強く輝く瞳が僕に向けられる。
インドア趣味なくせにキャンプをしたがるのも、両生類が苦手なことも、経済誌だけを読むところも、好ましかった。
だからふいに君の瞳がまばゆい思い出をそっと照らしていく。
良き日々だった。輝く刹那の欠片ばかりが燦々と胸を焼く──などと語れば「今の俺は見えないって言うのか?」と言葉だけで拗ねられるほど親しくなったので、僕は大人しく君を見つめて口をつぐむのだった。
これほど長く隣にいるってことはそういうことなのだと、瞳が伝えることを願って。
3/29/2023, 10:36:22 AM