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♯ささやき


 ひそひそと話し声がして、私はびくりと肩を震わせた。
 おそるおそる振り返ると、そこにはだれもいない。
「大丈夫……?」
 先生の不安そうな声が聞こえた。
 私は、はっと顔を前に戻す。先生が気遣うように私を覗き込んでいた。
「はい……」私は自信なさげに目を伏せる。まだ胸がどきどきしていた。
 机の上のノート。そこに書かれている数式は、本当なら去年のうちに学んでいたもの。たくさんのクラスメートと一緒に。
 ここ――フリースクール――には、私と先生しかいない。いない、はずなのに。
 ひそひそと話している。私を嗤っている。蔑んでいる。あの子たちの囁きが、いまでも耳の奥底に固くこびりついている。

 私の中から聞こえてくるものなら、逃げ場なんてどこにもない。

4/22/2025, 3:04:32 AM