よあけ。

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お題:夜明け前

 夜明け前、無名だった。

 気づかれたくない。放っておいて。塞ぎ込みたい。何も知りたくない。隠してほしかった。覆い被さってほしかった。だから夜が好きだった。怖いものから守ってくれる。だから夜明けが怖かった。暗闇が守ってくれなくなるから。
 いつものブランケットにくるまって、いつもの匂いを嗅ぎながら、暗闇の中で怖いものから隠れていた。夜明けが嫌いだ。安心から遠ざけようとする。夜明けが嫌いだ。ブランケットを引き剥がそうとする。夜明けなんて来なければいい。夜明けなんて大嫌いだ。いつもいつもいつもいつもいつも押しつぶしてくる。夜明けが僕のことを嫌いだから僕も夜明けが大嫌い。

 「ほら」
 ブランケットの中に手が突っ込まれ、腕を掴まれ、引っ張りだされた日のことをよく覚えている。嫌だ嫌だと駄々をこねた。それはもう激しく駄々をこねた。「嫌だ絶対行かないブランケット返して」と喚く私を望みの通りほったらかして外へ引っ張って行った。
 息が白くなる寒い日のことだった。

 促されるまま顔を上げた。
 ぼんやりと光芒をなぞる。
 その先、黄金に煌めく太陽があった。
 ちか、ちか、きらりきら。
 東の彼方から広がる淡い金のベール。
 輝く星々を覆い隠し、月を脱色し
 朝は黒へと射し込んで
 紺へ、紫へ、青へ、空色へと薄めてゆく。

夜明けだ。大嫌いな、僕を連れ去る。夜明け。

 震える指を抱きしめた。

 夜明け前、私は何も無かった。

9/13/2023, 4:02:29 PM