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【赤い糸】

 物心が着く前。いつからかは思い出せないくらい前から存在していた繋がりの糸。それが見える自分にとって周りとの関係を繋ぐことは容易いことで、それと同様に関係を断ち切ることも簡単だった。
 家族愛は薄桃色。友情は橙色。仕事上の繋がりなら青色。尊敬等は黄色。憎悪なら黒。そして恋愛なら赤色。
 所詮『運命の赤い糸』というものだ。大体の赤い糸は別の人間に繋がっていていつかちぎれてしまう。ちぎれる前、その糸はまるで火に焼かれたように黒く焦げてボロボロになっていく。そしていつの間にかちぎれてしまっている。
 初めて糸がちぎれるところを見たのは親の離婚の時。夫婦仲は良く家庭環境も悪くなかった。そんな中、ある日の夜にリビングで言い合いをする母と父をみた。寝惚けて掠れた視界の中赤の糸が黒くボロボロになっていった。それと共に自分にも絡まっていた薄桃色の糸が次第に崩れていった。訳が分からずその場で糸を手繰り寄せ必死になって結んだ。泣きじゃくりながら結んだ糸は先程よりも速く劣化していった。ちぎれた糸を抱えて蹲り泣く子供にぽかんと空いた口が閉じれない両親は喧嘩をやめて必死になって泣き止ませようとしていた。だが糸の劣化は進む一方だった。それが怖くてずっと切れないで切れないでと願っていた。そして両親にはまた違う糸が表れていく。他の人の元へ伸びる赤い糸をちぎろうと手を伸ばすも、その糸は触れることが出来ずするりと手をすり抜けていった。それがまた怖くて泣き始めついには気を失ってしまった。記憶があるのはここまででその後は父が出ていってしまったらしく、家には目元を真っ赤にして台所に立つ母だけが残っていた。言い表せない感情が弾けて母にしがみついてきっと父よりもいい人と出会えると懇願のように繰り返した。母の赤い糸は力なく床に垂れているだけで誰とも繋がっていなかった。結局自分が高校生を卒業した後に母はぱったりと逝ってしまった。女手一人で育て上げてくれた母は最後まで強く最後まで自分の幸せを願ってくれていた。
『あなたは優しい子だからきっといい人と出会えるわ。私が味わえなかった幸せをあなたは掴み取って欲しい。愛しているわ……』
パタリと倒れた手に縋るように病室で泣いたあの日。母の葬式にいた見知った顔の男。今ではなんの情もわかない父の顔。その横でハンカチを片手に泣いている女性とこちらをただ見てくる少年。少年の周りを泳ぐように纏わりつく様々な色の糸。地震が貰えなかった家族の愛情。父親からの愛情が三つ編みのように絡まり固く結ばれていた。この子は愛されているのだろう。良かったねと笑いかけてやりたいがそれも出来ない薄情になってしまった自分が憎かった。別に父親のことを憎んでもいいのだろう。でもそれが出来なかったのは幼少期、父が出ていく前まで与えられた愛情のせいだろう。それが忌々しかった。親子という関係がなくなってもなお絡みつく薄桃色の糸を何度ちぎって何度結んだだろう。母と父の意図は結んでも結んでも解けてしまう。だから自分だけはと懸命に結んだ。でもそれが忌々しくて何度もちぎった。結局は意味がなかった。新しい家庭の子供に絡まる糸は自分たちの時よりも固く強い。
 母の写真を胸に抱えそのまま少年の元まで歩く。少年はよく父に似ていた。色素の薄い茶色の髪と肌。優しい目尻。だがその顔には表情はなくまるでこちらを蔑んでいるようで無性に苛立った。数十メートルの距離をゆっくりと歩き近づいていく。ねぇ、自分が貰えなかった父の愛情は温かいものだったかい。幸せなのかい。自分はそんな君が憎いよ。口には出せないドロドロとした嫉妬心。いっその事この少年を手にかけようか。そんなことも思った。肉の落ちた薄い手を少年の首に持っていく。相変わらず表情は動かない。ただその薄い唇から音が漏れた。
「苦しかったね」
嗚呼、彼には何が見えているんだろう。行き場のなくなってしまった手は優しく少年に握りこまれる。暖かく柔らかい手は母を彷彿とさせた。抱え込んでいたものが全て雫となって溢れる。崩れるように。壊れるように。少年の胸に縋るように泣いた。視界の端に浮かんだ赤い糸は自分と少年をその糸が切れないようにと強く固く繋げていた。


【一言】
おひさしぶりぶりざえもんです🌱 ᐕ)ノClockはんやで(((ベシ久々に書きました。いまさっきから書きましたを描きましたって語義ってて困ってる。糸を意図って書くし。いやぁぁぁ( ^ ^ ω )関係を表す糸が見える主人公と家族そして最後に出てきた少年のお話ですね、はい。主人公は20代くらいの程で書いてます。少年と言ってもそこまで歳離れてない気がする。多分。その少年の設定なんですけど、主人公と同じように糸が見えててでも主人公よりもそういう力が強くてその人の心情も読み取れるみたいな。「苦しかったね」は何を見て言ったのかは考察してみてください。下手で申し訳ないです💦
それではまた( ´ ▽ ` )ノ

6/30/2023, 11:50:37 AM