『七色』
「おはよう、昨日雨すごかったね」
「ほんと、全然寝れなかったよ」
「今日はお家でのんびりしようか」
「そうだね」
雨上がりの朝、昨日の大雨などまるでなかったかのような青空。
真夏の太陽は燦々と輝き、窓辺からリビングを照らしていた。
「はい、朝ごはんどうぞ」
「ありがとう」
バターの乗ったシンプルなトーストにカラフルなサラダ。
色とりどりの野菜は我が家で収穫したものだろう。
「ん、プチトマト美味しい」
「ね、美味しくできた」
二人で一緒に育てたプチトマトだ。
可愛がってやった。名前はぷち。
…ちょっと、食べるのは心が痛いけど。
そんなカラフルなトマト達を見て、ふと思った。
「そういや、虹出てる?」
「いやー、さっき見たけど出てなかった」
なんだ、せっかく雨上がりだってのに虹は無しか。
まぁ雨が降れば絶対に見れるってわけでもない。
今日は少し運の悪い日なのだろう。
「ちょっと水やりしてくるよ」
「わかった、行ってらっしゃい」
「あとで手伝いに来てね」
「はーい、食べ終わったら行く」
君が髪を風になびかせながらベランダに向かうのを見て、
俺はサラダをかきこんだ。
ちゃんと味わえる程度に急いだ。美味しかった。
「あ、ちゃんとご馳走様言った?」
「言った言った」
「ほんとにー?」
こちらに疑念を向けてきた君は僕に詰め寄るような仕草をして、
その拍子に水の入ったジョウロが傾いた。
ジョウロから出た水は、俺のサンダルに直撃。
「冷たっ!?」
「え、ごめんごめん!」
いいよいいよと言おうとしたが、
「…あ、虹」
思ったことが先に口走ってしまった。
「あ、ほんとだね、ちっちゃい虹」
俺たちの足元には、小さな虹が架かっていたのだ。
「きれいだね」
そう言ってる君が綺麗だよ。
なんてキザなセリフは言えたもんじゃない。
「ね、虹見れてよかったよ」
大きな虹こそ見えなかったものの、
小さな幸せは身近に転がっていたようだ。
前言撤回、今日は運のいい日だ。
3/26/2025, 3:43:28 PM