望月

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《逆光》

 君は誰よりも眩しい存在だ。
 太陽のように、遍く全てを照らすような。
 だから、その隣にいる僕は誰よりも暗い存在なのだ。
 太陽に照らされた、月のように。
 君は困っている人がいたら必ず手を差し伸べる。たとえ時間がなくとも、相手がどんな人であったとしても。
 見ていてハラハラさせられるけど、君はそんなことまるで気にしていない。
 僕なんかの心配を他所に、誰かのヒーローになってしまうのが、君という人だった。
 泣いている人がいたら。
 何があったの、話したくなったらでいいから、話を聞かせてくれると嬉しいな。
 辺りを行き来している人を見たら。
 どうしたの、どこかに行こうとしているの、なにか探し物なの、もしよかったら手伝わせてほしい。
 怪我をしたら。
 痛いよね、大丈夫だよ、手当しようか。
 体調を崩している人がいたら。
 大丈夫、ゆっくり呼吸して、何かできることあったら言ってね。
 そんな風に、息をするように容易く駆け寄って人の役に立とうとする。
 そんな君だったから、僕は隣にいられなくなった。
 君が眩しすぎて、僕には君の姿が、本当の君が見えなくなっていったんだ。
 人見知りで、泣き虫で、気弱で。
 怖がりで、どん臭くて、不器用で。
 僕が知っている君は、今とは正反対の君だった。
 だから、いつの間にかその顔が上手く見れなくなって、声しか聞こえなくなった。
 いつも通り、取り繕ったような明るい声。
 怒った時だって、誰かの為に怒っていた。
 だから、君の心の底からの罵倒など、聞いたことがない。
 僕は、幼馴染なのに。
 少なくとも幼い頃は君の一番近くにいたのに、僕の記憶の中の君は、ある時から弱音も一切吐かなくなった。
 そうして、僕は思うのだ。
 君が心の底から笑ったのは、自分の為に怒ったのは、周りを気にせずに過ごせたのは。
 ずっとずっと幼い頃だけだったんじゃないか、と。
 僕らは幼馴染だけど、それでも、こんなに近くて遠くにいる。
 なら、それ以外の友達なんかはなおさら、本当の君の姿を見失っているんじゃないか。
 考え出したら切りがない。
 それくらい、今の君は眩しすぎる。
 なのに、烏滸がましい筈の思いが溢れる。
 
 ——君の本当の姿を見付けられるのは、僕だけなんだ。

 変に確信めいたその思いだけは、僕という影の中で輝きを放っているようだった。

1/24/2024, 3:01:39 PM