『日陰』 日の当たらない裏庭、苔の絨毯、湿った空気の匂い。 ミニチュアの椰子の木みたいな苔の合間を、黙々と整然と蟻が行進している。 ずっと昔の記憶。その頃、私が(彼女が)何者であったのか、何と称ばれていたのか、そんなことは憶えていない。なのに蟻たちの行軍だけは記憶に焼きついている。 死んだ生きものを解体して、屍骸の欠片を運ぶ蟻たち。 そのとき私は(彼女は)、死神になりたかったのかもしれない。
1/29/2025, 10:42:24 AM